≪米国で先鋭化し始めた議論≫

 北朝鮮の核ミサイルが米国本土を直撃する可能性が高まるにつれ、米国での議論はより先鋭化し分極化する様相を見せている。

 北が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発配備さえやめるなら、米側は中・短距離の(すなわち日本や韓国を射程に収めた)核ミサイルの保有は容認し、人権問題も棚上げし、平和条約を締結するという露骨な妥協案が元政府高官らから公然と出始めた。

 一方、北がICBMを実戦配備する前に、たとえ韓国など周辺諸国に被害が及ぼうとも、軍事攻撃によって体制転換(レジーム・チェンジ)を実現すべしとする主戦論も勢いを増している。

 いずれも「アメリカ・ファースト」を基調とした議論であり、それゆえトランプ大統領がどちらに傾いても不思議ではない。まず前者を追求し、途中で不首尾を悟って後者に移行するといった展開もありうる。

 なおトランプ氏自身、最近与党の有力議員に「金正恩政権にアメリカをたたくICBMは持たせない。そのために戦争になるとしても、何千人と死ぬのは向こう(朝鮮半島周辺を指そう)においてだ。こちらで人が死ぬことはない」と語っている。

 「取引の達人」を自認し、世界最強の軍の指揮権を委ねられながら、北のような非人道国家に米国本土に届くICBMの配備を許したとなれば、トランプ氏再選はまずあり得ない。遠からず何らかの形で決着を付けにかかるだろう。

 8月6日(日本時間)、国連安全保障理事会で対北追加制裁が決議されたが、中露をはじめハナから真剣に履行する気のない国が多い。

 それゆえ米国では、北と取引を続ける第三国の企業・金融機関への「二次的制裁」を法制化したが、それでも決定的効果は見込めないとの認識が、先に触れた議論の分極化・先鋭化の背景にある。

 さて、上記2論のうち、前者(「アメリカ・ファースト」の妥協論)は日本にとって論外だろう。明確に異議を唱えねばならない。問題は後者である。

≪中国の協力が軍事行動の分岐点≫

 民間における主戦論の主唱者ジョン・ボルトン元国連大使の「北朝鮮への軍事オプション−ある種の攻撃は中国が平壌の政権打倒に同意しない限り不可避だろう」と題する一文が参考になる(ウォールストリート・ジャーナル)。

 なおボルトン氏は最近頻繁にホワイトハウスに呼ばれており、政権入りとの観測もある。

 さて氏は、何度騙(だま)されても懲りない人々と妥協論者を批判した上、「異常な北朝鮮体制を終わらせることで、核の脅威を終わらせる」以外に道はないとし、唯一意味のある交渉はその実現に向けた中国との協議だと述べる。

 なお、中国が北の独裁者の無力化(暗殺、宮廷クーデター促進、亡命工作など形態は多様)に主導的役割を果たすなら、その後に親中傀儡(かいらい)政権を認めてもよいとの意向を、米側はさまざまなルートで伝えているとされる。

 中国が協力しない場合は、軍事行動以外の選択肢はなくなるとボルトン氏は強調する。

 具体的には、北の指令系統中枢、核施設、ミサイル製造工場、発射基地、潜水艦基地などへの先制攻撃を、海空軍の爆撃や特殊部隊の進入、破壊工作、サイバー攻撃など多岐にわたる手段をフル動員して行うことになる。

 その際、韓国への攻撃に備え、北の報復能力を最大限破壊する作戦が同時に実施されねばならない、とボルトン氏は言う。

≪全面協力の意思を米側に伝えるべきだ≫

 この北による報復リスクは、妥協論者においては軍事行動を排除する十分な理由となるが、主戦論者においては逆に軍事行動の拡大を要請するものとなる。ここにも分極化の様相が顕著に見て取れる。

 なお、戦争に依らない独裁者の無力化、体制転換がベストという認識は主戦論者にもある。

 ただ中国を突き動かし北の政変可能性を高めるためにも、米国が実際に軍事攻撃を決断せねばならないというわけである。それが政変に繋(つな)がれば歓迎だし、繋がらなければ計画通り作戦遂行となる。

http://www.sankei.com/column/news/170808/clm1708080006-n1.html

>>2以降に続く)