北朝鮮の核弾頭搭載ICBM開発を阻止する手だてが急速に失われつつある現在、北朝鮮ウオッチャーはトランプ米大統領が取り得る軍事上の選択肢の分析に取り掛かっている。トランプ大統領は8日、北朝鮮が脅しを続けるなら、「炎と怒り」に見舞われるだろうと発言した。

国連安保理でかつてなく厳しい制裁決議が採択されたことを受け、北朝鮮は米国の侵略阻止に核兵器プログラムは不可欠だとの立場を繰り返し示している。トランプ大統領と米国にとって、安易に取り得る選択肢は残っていない。

1.米国は局地的攻撃を試せないか?
  
局地的攻撃は恐らく十分な効果を得られないだろう。北朝鮮のミサイル・核施設は山間部に分散し、隠されている。このため、一挙に全ての施設を破壊できなければ、通常兵器ないし核ミサイルでの反撃を招き、ソウルや東京都市圏といった人口密集地域のほか、北東アジアの数万人規模の米軍も生命の危機にさらされる恐れがある。米国が全施設の壊滅に成功したとしても、ソウルが砲撃を受ける可能性がある。

2.金委員長はなぜ核武装するのか?
  
米国が「限定的な攻撃」を行った場合でも、「北朝鮮がはるかに大規模な攻撃の始まりだと考えて、核兵器使用を選ぶ可能性がある」と、ミドルベリー国際大学院の東アジア核不拡散プログラムディレクター、ジェフリー・ルイス氏は指摘する。従って、米国は北朝鮮および同国の主要貿易相手国で同盟国でもある中国に対し、局地的攻撃は限定されたものであり、核兵器による報復は避けるべきだと伝達する必要があるという。

3.北朝鮮体制の交代は選択肢の一つか?
  
新体制に代えたとしても、北朝鮮指導が必ずしも新しい考え方をするとは限らない。現在の金正恩朝鮮労働党委員長も権力の座に就く前は、スイスへの留学経験や米欧の価値に親しんでいたことから、経済改革や国の開放に乗り出すのではないかとの期待も一部あったが、実際は全く違った。また金委員長が何らかの手段で排除の標的となれば、側近も丸ごと取り除かれ、多数が粛清されることになる。中国は危機的な難民流入や中朝国境の米軍配備を回避するため、現体制を支える可能性が高い。

4.それでは全面戦争が米国にとって最善の選択肢か?
  
北朝鮮のミサイル・核施設に加え、砲撃能力を迅速に失わせるためには本格的な侵攻が必要になるだろう。しかし、米軍の火力増強や韓国軍の動員、朝鮮半島からの米国市民の避難など、北朝鮮攻撃が差し迫っている兆候が認められれば、北朝鮮は先制攻撃に踏み切る恐れがある。中国とロシアも説得される可能性がある。

5.攻撃を受けた場合に北朝鮮はどう反撃するか?
  
最初の反撃はソウルおよびその周辺への大規模砲撃になる可能性が高い。国境付近に配備されている砲撃能力は、空軍や海軍、そして朝鮮半島や日本や米軍の基地などが標的になり得る大型弾道ミサイルよりも早く攻撃態勢に入れる。北朝鮮が米国本土の都市を核弾頭搭載ICBMで攻撃できるかどうかは不明であり、これらの国はミサイル防衛システムを配備しているが、すべてのミサイルを防げるかどうかも明らかではなく、米国民の不安は高まっている。

6.開戦した場合の経済的損失の規模は?
  
韓国は世界全体の国内総生産(GDP)の約1.9%を占め、サムスン電子や現代自動車など世界的企業を有する。朝鮮半島で戦争がぼっぱつし、経済活動が著しく低下すれば、地域と世界に大きな影響が及び得る。世界金融市場も短期的に甚大なショックを受け、金やドル、スイス・フランなどの安全資産への資金逃避の動きが起こるだろう。

7.現在どのような選択肢が残っているか?
  
多くのアナリストは、状況が悪化しないよう、今こそ協議を開始するべきだと指摘する。ミドルベリー国際大学院のルイス氏は、北朝鮮が熱核反応兵器ないしさらに高度の固体燃料ミサイルの完成を阻止することが、目指す価値のある目標であり、そのためには、受け入れにくいかもしれないが、北朝鮮に見返りをちらつかせて交渉のテーブルに就ける必要があると指摘する。

同氏は北朝鮮を念頭に置いた米国主導の軍事演習の規模を縮小することが見返りの一つになり得ると主張する。ソウルの延世大学のジョン・デラリー准教授は「国民や議会、北朝鮮と議論すべきなのは戦争のシナリオに関する空想事ではなく」、北朝鮮に何を提示できるかという問題だと指摘。「現実的な選択肢は事態進展の速度を落とすという外交的選択肢だ。これには多くの協議が必要になろう」と語った。  


2017年8月9日 15:04
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-09/OUEJ356TTDS401