北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が米領グアム沖へのミサイル発射の「保留」を示した意図はどこにあるのか。国土が脅威にさらされた米大統領の軍事的報復も辞さない激しい怒りを初めて目の当たりにし、仕切り直しを迫られたようだ。

 「悲惨な運命を待つ、つらい時間を過ごす愚かで哀れな米国のやつらの行動をもう少し見守る」。14日、発射計画を報告された金委員長はこう告げたという。

 超大国を見下した言葉だが、内心はどうか。金委員長は14日の戦略軍司令部の視察まで2週間動静が途絶えていた。韓国当局は、金委員長が最近、米国からの攻撃を避けるため、露出を制限しているとみている。2週間の空白は金委員長の“迷い”と“恐れ”を映している可能性がある。

 大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含むミサイル発射を繰り返す裏には「報復でソウルに戦火が及ぶことを恐れ、米国は手出しできない」という侮りがあったことは北朝鮮側の強気の主張からも読み取れる。

 金正恩政権が出帆した当時のオバマ米政権は「戦略的忍耐」の下、対北不関与を決め込んだ。2010年、指導者就任前の正恩氏が関与したとされる韓国哨戒艦撃沈や延坪(ヨンビョン)島砲撃が起きるが、米政府が軍事的措置を示すことはなかった。

 だが、トランプ大統領は違った。「グアムで何かやれば、見たこともないことが北朝鮮で起きる」と警告。「軍事的解決策の準備は整っている」と強調し、米国の領土と国民の安全を断固守る意思を示した。「レッドライン(越えてはならない一線)」が何かを明確に突き付けたのだ。

 金委員長は一方で、砲兵らの士気の高さを強調。超大国を「手玉」に取りながら一歩も退かない指導者像を演出し、国民の鼓舞に躍起になっている。

 国連制裁決議を非難した政府声明を支持する集会を各地で開かせ、党機関紙は「347万人以上が軍への入隊や復隊を嘆願した」と伝えた。制裁による経済的打撃が深刻化する前に国内の引き締めを図る必要があるからだ。

 制裁が財政を直撃する前にICBMを完成させる必要にも迫られている。グアム沖への発射以外にもICBMや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を奇襲的に発射する事態は十分想定される。

 発射「保留」でミサイル開発が止まるわけではなく、日米韓への脅威は今も増し続けている。(ソウル 桜井紀雄)

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北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長