北朝鮮の金正恩党委員長にとって8月は、またもや「怨念」の月になるかもしれない。北朝鮮は中距離弾道ミサイル4発を米領グアムに向けて発射する計画を8月中旬までに策定すると表明していた。

 しかし、金正恩氏が「(米国の)行動をもう少し見守る」と述べたのだ。

■トイレを使えない

 金正恩氏は14日、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)戦略軍司令部を視察。朝鮮中央通信は、同氏の発言について次のように伝えている。

 「米帝の軍事的対決妄動は我が手で首にわなをかけるようになってしまったと述べ、悲惨な運命の分秒を争うつらい時間を送っている愚かで間抜けなヤンキーの行動をもう少し見守る」

 少なくとも今は発射しないということである。金正恩氏は、7月4日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」型の発射に立ち会った時、ミサイルを米国へのプレゼントに例えて「これからも退屈しないように大小の『贈物包み』をしばしば送ってやろう」と述べていた。

 当時と比べると随分トーンダウンしているようだ。また、金正恩氏は次のように述べた。

 「米国はわれわれに対する傲慢無礼な挑発行為と一方的な強要を直ちにやめ、われわれをこれ以上、刺激してはならない」

 「世界の面前でわれわれにまたもや叩かれる恥をかかないようにするには理性的に考えて正確に判断すべきである」

 「米国がわれわれの自制力を試して朝鮮半島の周辺で引き続き危険極まりなく妄動するなら、すでに闡明(せんめい)した通り重大な決断を下す」

 発射計画を撤回するわけではないが、まずは米国の対北姿勢の転換を促す論調だ。もちろん、金正恩氏がミサイル発射を保留したからといって米朝対立が収束したわけではなく、また北朝鮮が敗北したわけでもない。

 しかし、この間に激化していた米国のトランプ大統領との舌戦からは一歩引いた形と言える。

 実は、2015年8月にも北朝鮮と韓国の間で同じような事態が起きていた。軍事境界線の非武装地帯で北側が仕掛けた地雷が爆発したことをきっかけに、深刻な南北対立が勃発した。

 すると、当時の朴槿恵政権は、韓国軍兵士の身体が吹き飛ばされた瞬間の映像を公開した。これにより、韓国世論は朴大統領の強硬姿勢を後押しし、北朝鮮を事実上の謝罪に追い込んだ。

 謝罪に追い込まれた金正恩氏に追い打ちをかけるように、米韓軍は北朝鮮の首脳部、すなわち金正恩氏に対する先制攻撃を意味する「斬首作戦」を導入した。

 金正恩氏は大きなプレッシャーを受け、これ以降、公開活動は激減する。普通の人と同じトイレが使えないなど、金正恩氏は公開活動にともなうストレスが大きい。そこに、自らが暗殺されるかもしれないという恐怖心が重なり、ただでさえ重い金正恩氏の腰はさらに重くなったようだ。

 金正恩氏にとって8月はつくづくげんの悪い月のようだ。米軍と韓国軍は今月21日から、定例の合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」を実施する。

 北朝鮮が表明したグアムへのミサイル発射威嚇は、合同軍事演習を牽制し、あわよくば中止に追い込む狙いもあったのかもしれない。しかし結局、そうはならなかった。

 米韓合同軍事演習が始まったら、金正恩氏がどのような姿勢を示すのかが注目される。

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170816/soc1708160014-n1.html
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金正恩氏