北朝鮮が8月29日、またも弾道ミサイルを発射した。今回のミサイル発射が何を狙ったものなのか。さらなる挑発の可能性はあるのか。拓殖大学大学院特任教授の武貞秀士さんに聞いた。(聞き手・読売新聞メディア局編集部次長 田口栄一)

――今回の発射では、技術的にどんな狙いがあったのか。

今回のミサイルは日本海で三つに分離したと伝えられている。途中で不具合が生じたのかもしれないが、弾頭の大気圏再突入も含めて何がしかの新しい実験をやったのだと思う。複数の弾頭をつけたミサイルを発射した可能性も否定できない。

――ミサイルの種類は?

29日午前の小野寺防衛大臣のコメントを聞いていると、「火星12」という印象も受けるが、まだわからない。

――これは日本に対する威嚇か、米国に対する威嚇か。

明らかに日本だ。8月14日に北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が「しばらく米国の行動を見守る」と言った。グアムに向けたミサイル発射などの挑発はリスクを伴うと判断したのだろう。米国に対する挑発は控えながら、日本上空を通過させることで日本に照準を合わせた。

日米の外交、防衛担当閣僚による「2プラス2」が開かれた後でもあり、「日米同盟関係を強化すると日本も巻き込まれるリスクがある」というメッセージを込めたのだと思う。ミサイルは日本を意識して発射したものだ。

――今回、高く打ち上げるロフテッド軌道ではなかったようだが。

ミサイルが日本上空を越えていくところに狙いがあったと思う。

――北朝鮮は26日に続いてミサイルを発射した。中国の抑えは利かなくなっているのか。

利いていない。もともと中国の抑えは利いていなかったのだから。

――最近、北朝鮮が核実験の準備を進めているとの情報もある。核実験を強行する可能性はあるか。

米国の国連大使は核実験はレッドライン(越えることができない一線)であると言っている。米国に対しては直接的な挑発は避けるというのが北朝鮮の方針だ。核実験をすれば米国に対する正面きっての挑発になるので、北朝鮮にとっては依然としてハードルは高いと思う。

プロフィル
武貞 秀士( たけさだ・ひでし )
1949年、兵庫県生まれ。慶応義塾大学大学院博士課程修了。韓国・延世大学韓国語学堂卒業。75年から防衛庁防衛研修所(現・防衛省防衛研究所)に教官として36年間勤務。在職中に米スタンフォード大学、ジョージ・ワシントン大学で客員研究員、韓国・中央大学で教授を務める。
2011年に防衛省を退官した後、延世大学教授などを経て拓殖大学大学院特任教授に。専門は朝鮮半島の国際関係論、日本の防衛問題。
著書に『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所)、『東アジア動乱 地政学が明かす日本の役割』(角川oneテーマ21)、『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか 激変する東アジアの国家勢力図』(PHP新書)などがある。

http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20170829-OYT8T50018.html