「これまでにない深刻かつ重大な脅威」。北朝鮮は29日、弾道ミサイルを発射し、事前通告なしに日本上空を通過させた。これ以上の暴挙を未然に防ぎ、国民の生命・財産を守るには、北朝鮮への圧力や、防衛態勢の強化が欠かせない。ただ、地方自治体やインフラ企業にとっては「ミサイル着弾」という万一の事態を想定した備えも必要となる。 (村上智博、中村雅和)=1面参照

福岡県は平成18年に策定した県国民保護計画に基づき、対応する。

「日本が武力攻撃を受けた」と政府が認定した場合、県庁に「国民保護対策本部」を設置し、知事が住民に避難指示を出す。避難先として県内約4500施設も選んでいる。

仮にミサイル着弾などで、被災した市町村が混乱に陥った場合、県は消防や警察も入った「現地調整所」を現場周辺に設ける。関係機関が連携して、状況把握や避難誘導に努める。

生物・化学(BC)兵器も想定する。市町村の防災無線などを通じて、住民に注意を促す。「屋内では換気扇を止め、窓に目張りをする」「屋外なら口と鼻をハンカチで覆い、密閉性の高い部屋や、少しでも風上に避難する」といった内容となる。

福岡県はBC兵器も想定し、関係機関と図上訓練を繰り返している。

インフラ企業も、備えの充実を図る。

九州電力は非常事態の発生に合わせて、社長をトップとする「国民保護対策総本部」を設置し、送電網復旧などに力を注ぐ。

原発のある佐賀県玄海町、鹿児島県薩摩川内市に全国瞬時警報システム(Jアラート)が発令された場合、九電はただちに、原子炉停止の作業を始める。

その後、周辺の放射線測定値に異常があれば、速やかに関係機関に通報する。

異常が継続・拡大した場合、拠点となるオフサイトセンターで対応する。玄海原発では佐賀県唐津市に、川内原発は薩摩川内市に設置している。センターには九電や地元自治体、国などの担当者が集結する。

九電は平成18年に、全般的な非常時対応マニュアルとなる「業務計画」を、25年には原発に特化した「防災業務計画」を策定した。

自然災害や機器のトラブルだけでなく、ミサイル着弾も、これらの計画に沿って対応する。

◆輸送力の確保

非常時は住民避難も、大きな課題となる。

自治体はJR九州や西日本鉄道などの交通各社と調整し、輸送力の確保に努める。九州に多い離島からの避難については、海上保安本部に協力を要請する。

JR九州は「ミサイル着弾を想定した専用のマニュアルはないが、輸送力確保のために、できる限りのことはする」(広報担当者)としている。

そのJR九州は、Jアラートや、緊急情報ネットワークシステム(エムネット)などで、ミサイル飛来が伝達された場合、いったんはすべての列車運行を停止する。安全が確認されるまで、列車はその場で待機する。

関係者は最悪の事態も想定して、備える。

ただ、29日の場合、ミサイル発射(午前5時58分)から、北海道襟裳岬上空の通過(同6時6分ごろ)まで、10分もなかった。自治体や企業として、できることは限られる。

北朝鮮にミサイルを撃たせない外交力、防衛力の強化が欠かせない。

http://www.sankei.com/region/news/170830/rgn1708300033-n1.html