日本上空を通過するミサイルの発射など、度し難い挑発を北朝鮮はなぜ続けるのか−。李相哲・龍谷大学教授が読み解く北朝鮮の本質「3つの要素」とは。

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北朝鮮をみるときに看過できない2番目の特質は、人命を大切にしないということです。これは社会主義国に共通することでもあります。

北朝鮮の歴史を振り返ればよくわかるのですが、1994年に(国家主席の)金日成(キム・イルソン)が亡くなり、その1年後くらいから北朝鮮は洪水や災害に見舞われ、苦難の行軍といわれる大変な時期を迎えます。この96年から99年までの間に約200万人の国民が飢え死にした。北朝鮮の人口のほぼ10%です。

この数字に関してはいろいろな議論があり、97年に北朝鮮から韓国に亡命した(朝鮮労働党書記の)黄長●(=火へんに華)(ファン・ジャンヨプ)は、当時北朝鮮の権力構造のなかで序列21番目の党の幹部ですが、彼の見積もった数字が200万人です。

また、彼と一緒に亡命した秘書の金徳弘(キム・ドッコン)という人。私は直接会って話を聞いたこともあります。彼は亡命するまでに北朝鮮の党中央資料室という、党の秘密資料を扱う部署の室長をやっていました。そこで見た資料ではだいたい250万人が飢え死にしたと証言している。

国民が数百万人単位で亡くなっている、そういうときに北朝鮮政権は何をしたか。(総書記の)金正日(キム・ジョンイル)は父親の遺体を安置する太陽宮殿という宮殿を改修するんです。そこに推定9億6千万ドルをつぎ込んだ。

9億ドルという金額は、北朝鮮の2400万人の国民が3年間、延命できるだけのトウモロコシなどの食料を買える額です。北朝鮮の国民は国にお金がなくて死んだわけではありません。

北朝鮮という国は人の命を大事にしない。これは彼らの論理からすると強みでもある。例えばわれわれはいま北朝鮮を包囲し、制裁を科して追い込もうとしていますが、困るのは一般の人たち。周辺の人たちから飢え死にするわけです。北朝鮮の中枢部にいる人たちに影響が来るのはじわじわとであって時間がかかる。ですからいま制裁があまり効かないのはそういった面もある。

■国民を51の身分に割り統治、強制収容所…

普通の国では、国際的な制裁が科されて餓死者が出れば、その政権は倒れる。でも北朝鮮では必ずしもそうではない。北朝鮮に国家安全省という、日本でいえば警察組織があるんですが、数年前にあるルートから、その国家安全省が出している秘密資料を入手して読んだことがあります。

資料によれば、北朝鮮は国民を51の「出身成分」に分類します。これをさらに3階層にわける。まず、政権を支える核心階層というものがあります。これは軍属や抗日闘争で貢献した抗日パルチザン家族で、こうした人々はほとんど首都の平壌に住んでいます。

それから動揺階層が地方に住んでいる。敵対階層というものもある。この敵対階層はだいたい隔離地域、韓国との国境の38度線近くや炭鉱がある地域、山間の僻地(へきち)に隔離している。少しでも政権に不満を表出しそうな人たちは、強制収容所に監禁します。

北朝鮮の強制収容所を撮影した衛星写真から分析すると、推定で16万人から25万人が強制収容所にいるといわれています。敵対階層は彼ら北朝鮮指導部にとっては国民ではないというか、死んでも心が痛むわけではない。彼らの階級闘争論からすれば、敵対階層は淘汰(とうた)する対象であって国民ではない。

ですから北朝鮮は人権といった概念からはほど遠い国であって、人命を尊いとは思わないのです。そうすると何が起こるか。

例えば、核戦争で金正恩が核兵器の発射ボタンを押すのではないかと私に質問する人もいるのですが−私は正直なところ想像もしたくないが−、社会主義の階級闘争論や敵対階層に対する哲学からすると、あり得るんですね。

http://www.sankei.com/west/news/170831/wst1708310010-n1.html

>>2以降に続く)