日本上空を通過するミサイルの発射など、挑発を続ける北朝鮮。アジア近代史など専門の李相哲・龍谷大学教授が読み解く北朝鮮の本質「3つの要素」とは。

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■日本が忘れやすい点…「国際情勢は、どれだけ自国の国益を考えて行動するかが全て」

3番目の彼ら(北朝鮮)の特徴は、これも社会主義国の共通点ですが、目的達成のためには手段を選ばない。一言で言うとルールを守らない、約束を守らないのです。

北朝鮮が歩んできた道、米国と交わした約束、韓国と交わした約束、それらの内容とその後を照らしてみると、約束はほとんど守られていないんですね。例えば1994年10月にジュネーブで米朝枠組み合意が交わされました。

その内容は北朝鮮が核兵器開発を放棄し、代わりに米国が軽水炉を作ってあげるというもの。軽水炉が完成するまでは毎年50万トンの重油を提供するという約束でした。

しかし後になって北朝鮮はウラニウム型の核兵器をずっと開発しているということがわかったんですね。ここで合意は破棄されましたが、その後も2005年9月19日、これは919合意と言いますが、(米日中露と北朝鮮、韓国の)6カ国で話し合い、北朝鮮が核兵器を放棄する、その代わり米国は「敵対行為」を止める。

例えば米韓軍事演習の中止です。また将来的な平和協定などの含みを残していたんです。ところが、皆さんご存じの通り北朝鮮は翌年に第1回の核実験を行いました。

北朝鮮は、敵が怖いとき、自分の力が尽きたとき、へとへとになったときには約束を交わします。そして時間をかせぎ、状況が好転するとまた挑発し、約束を破るのです。

私は中国で育ったので、中国という社会主義国のやり方と北朝鮮のやり方を照らし合わせるといろんなことがわかるのです。毛沢東はかつて「持久戦を論じる」という論文を書いていまして、私は大学時代に読みました。その戦術と全く同じです。敵が怖いときは逃げる、敵が弱いところを捕らえて攻撃する、困ったときは話し合う、というものです。

ですから、彼ら北朝鮮が話し合いに出てくるときは、もう困って困り果てて出るしかないという状況にある、と見た方がよい。

国際関係論や国際政治では、この国は良い国とか、この国は悪い国という考え方はない。国際情勢のなかで、自国の国益をどれだけ考えて行動するかが全てです。でも北朝鮮の問題というのは、国民の利益を優先するのではなく、政権を維持するためにどうすべきかということを最優先している点にあります。

北朝鮮、この国の成り立ちは1945年9月、日本が終戦で撤退したあとソビエト連邦(当時、現ロシア)が北朝鮮に進軍したときに始まります。北朝鮮に続々と戻ってきた政治勢力の中には、延安で毛沢東たちと一緒に革命に参加した人たち、韓国国内で日本に反抗して活動していた民族主義者、ソ連から戻った社会主義派がいた。

金日成(キム・イルソン、後の北朝鮮国家主席)は1940年くらいからソ連のハバロフスクの近郊にあるビャツッコエという遊撃隊訓練キャンプで大尉の階級にいたソ連兵です。当時33歳の若い金日成の周りに人材を集めなければならないので、個人崇拝を始めた。

近年になってソ連の資料館から発掘された資料から、ソ連の進駐軍将軍たちが金日成をどうやって偉い英雄に仕立てたかという工作の過程がありありと描かれています。

それは金日成がかわいいからではなくて、ソ連が北朝鮮という国(の国民)を思い通りに動かすためです。ソ連が操る金日成の言う通りに北朝鮮国民を動かすためには、金日成を偉大な将軍に仕立てなければならない。

そこから、北朝鮮は、一人の英雄がいて、「この人の周囲に団結すれば全てうまくいくよ」というストーリーを作っていく。その次に後継者になる金正日(キム・ジョンイル)は1942年生まれですから抗日も何もしていないため、英雄譚(たん)がない。朝鮮戦争にすら参加していない。そこで何をしたかというと、神話を作るんですね。

http://www.sankei.com/west/news/170901/wst1709010009-n1.html

>>2以降に続く)