起亜自動車の通常賃金をめぐる訴訟の一審判決は自動車業界全体に衝撃を与えた。判決は定期ボーナスを通常賃金に含めるべきとの判断を示したものだ。通常賃金はさまざまな手当の算定基礎となるため、判決が確定すれば人件費の増大要因になる。

韓国への終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備をめぐる中国の報復措置による販売不振、輸出と内需の同時低迷、相次ぐストライキなど悪材料が山積する中、通常賃金訴訟でも期待を裏切られ、「潜在的悪材料」が現実となった格好だ。現在起亜自を含め、通常賃金訴訟が進行中の115社のうち、現代ウィア、現代モービス、韓国タイヤなど相当数が自動車業界だ。

裁判所は今回の判決で、「起亜自の現在の財務状況、売り上げなどは悪いとは言えない」とし、労使間の合意を尊重する「信義誠実の原則」(信義則)を認めなかった。これについて、自動車業界は「最悪に近い状況を直視していない」と反発した。韓国自動車産業学会の金秀旭(キム・スウク)会長は「今回の判決で現代・起亜自はもちろん、韓国の自動車産業がこれまでにない危機を迎えた」と指摘した。

■吹き荒れる悪材料の嵐

韓国の自動車産業は製造業の13.6%、雇用の11.8%、輸出の13.4%を占める基幹産業だ。しかし、今年に入り、内需、輸出、海外販売がいずれも低迷し苦戦している。今年上半期の韓国の自動車輸出は132万5710台で、2009年以降で最低だった。年間生産台数は昨年、インドに抜かれ、今年はメキシコに追い上げられている。現代・起亜自動車の上半期の中国における販売台数は前年同期比で47%減、米国は9%減だ。その影響で現代自の中国工場4カ所が一時操業を中断する事態に発展した。

今回の判決で直撃を受ける起亜自は深刻だ。今年上半期の中国での販売台数は前年同期比で55%減少し、全世界での営業利益は前年同期(1兆4045億ウォン)の半分の7868億ウォン(約769億円)にとどまった。起亜自は今回の敗訴で、遡及(そきゅう)分として1兆ウォンの引当金を計上しなければならない。会計上は2007年7−9月期以来10年ぶりに営業赤字に転落しかねない状況だ。

自動車業界は裁判所が「産業の危機」を認識していないとみている。危機状況を認識し、通常賃金の遡及適用を免除するだけでも十分なのだが、裁判所はそれを見逃した。起亜自は中国や米国での売り上げ状況に関する資料も提出したが、裁判所は受け入れなかった。

■懸念される後遺症

今回の判決で平均年収が9600万ウォンの起亜自労組の組合員は通常賃金の遡及分として3670万ウォンを受け取ることになる。会社にとっては、ただでさえ頭痛の種の人件費がさらに膨らむことを意味する。このため、研究開発(R&D)などに充てる資金が減少し、長期的な競争力低下につながりかねない。

起亜自の経営状況が悪化すれば、部品代金のスムーズな支払いもできなくなる。部品メーカーは巻き添えを食うしかない。韓国の自動車産業は完成車メーカー5社に一次下請けから三次下請けまでが垂直かつ従属的に絡み合っており、完成車メーカーの危機は下請け業界の崩壊につながる。

それだけではない。起亜自に部品を供給する下請け会社の労組も今回の判決に鼓舞される形で、相次いで通常賃金関連訴訟に加わる可能性が高い。韓国自動車産業協同組合のコ・ムンス専務は「強硬な全国民主労働組合総連盟(民主労総)金属労組の傘下に自動車部品メーカー52社の労組が所属している。

今回の判決を契機として、これら労組も訴訟を起こし、連鎖的に部品メーカーの営業利益が減少すれば、波紋は大きく広がりかねない」と指摘した。

起亜自の危機は現代自にも影響を与える可能性がある。現代自関係者は「通常賃金の拡大適用で起亜自労組の賃金が上昇すれば、通常賃金訴訟で2回敗訴した現代自労組も『同じ水準の賃金を支払え』と主張するのではいかと心配だ」と話した。

カトリック大の金基燦(キム・ギチャン)教授は「自動車業界は今、季節に例えれば、冬を迎える直前に木の葉が落ちる秋だ。越冬対策を立てなければ韓国経済は一気に冷え込みかねない」と警告した。

金城敏(キム・ソンミン)記者

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