戦時中に長崎市の三菱重工長崎造船所に徴用されるなどして被爆したとみられる朝鮮半島出身者約3400人の名簿を長崎地方法務局が廃棄していた問題で、長崎地裁に被爆者健康手帳の交付を求めて訴訟を起こしている元徴用工の韓国人の原告3人が1日、同法務局が原告の支援団体に廃棄を認めた証明書を証拠として訴訟に提出する方針を固めた。

4日の口頭弁論で提出する予定で、原告弁護団は「原告が被爆者と証明することを国が妨害したことが明らかになった以上、長崎で被爆したという原告の証言を重視して速やかに手帳を交付すべきだ」と主張する。

名簿は、終戦時に帰国した朝鮮半島出身者への未払いの退職金などを同造船所が法務局に供託した際に作成された。名簿の所在を確認した支援団体に対し、同法務局は7月、「1970年3月末で保存期間が満了し、同8月31日付で廃棄された」との証明書を出した。

証明書などによると、三菱が48年6月2日に3418人分の未払い金85万9770円78銭を供託したが、59年に時効(10年)を理由に国庫に納付した。

戦後処理が未解決であることを踏まえ、法務省は58年に朝鮮半島出身者への未払い金は10年が過ぎても国庫に納付せず、既に納付した場合も名簿を保存するよう通達していた。原告側は「名簿廃棄は通達に違反している。国が証拠隠滅をしておきながら、市が『公的な書類がない』として被爆者と認めないのは正義に反する」と主張している。

原告3人は90代で2014〜15年に長崎市に手帳交付を申請した。国は被爆事実を証明する公的書類などを求めており、供託名簿に名前があれば長崎での被爆を証明する有力な証拠となる。しかし名簿は見つからず、市は「徴用されていた記録がない」などとして却下。3人は16年に提訴した。【樋口岳大】

https://mainichi.jp/articles/20170902/k00/00m/040/210000c