北朝鮮の核・ミサイルという今そこにある危機からは目をそらし、現実離れした感情論や臆測で、気に入らない相手を批判するだけの言説が横行している。観察すると、おおむね2つのパターンがあるようだ。

一つは、「北朝鮮がどうあれ、とにかく悪いのは原因を作った日本側」という見方で、もう一つは「徹頭徹尾、とにかく安倍晋三首相が悪い」という意見である。両者とも根拠は見当たらないが、当人たちは深刻な顔でそう訴えている。

さらに前者と後者が混合した意見や、「対話」について、唱えれば問題が解決する魔法の言葉だと信仰するかのような声も加わり、もはや訳が分からない。

「無条件の直接対話が米国、北朝鮮間に必要だ。無条件の直接対話に踏み出すように求めていくことが必要だ」

共産党の井上哲士参院議員は5日の参院外交防衛委員会の閉会中審査で、こう説いていた。だが、北朝鮮に核・ミサイルを自ら放棄する考えが全くないのは、すでに国際常識だろう。

だとすると井上氏は、日本は米国に、北朝鮮が「核保有国クラブ」の一員となることを認めるよう働きかけろと言っているのか。核保有国たる北朝鮮の脅しと要求に、唯々諾々と従う日本こそが、好ましい将来像だと思っているのか。

「北朝鮮(に対し)、性善説のような質問ですが、何をしでかすか分からない国じゃないですか」

菅義偉官房長官が1日の記者会見で、北朝鮮側ではなく日本政府の対応ばかり疑問視して対話を促す東京新聞の記者を、こうたしなめる場面もあった。

国民の生命・財産に直結し、世界平和を脅かす危機を引き起こしている北朝鮮よりも、日本政府に対して「性悪説」をとって攻撃する人たちも少なくない。

5日付東京新聞朝刊によると、安倍政権による憲法9条改正に反対する市民団体の呼びかけ人の一人である評論家、佐高信氏は4日に記者会見し、こう訴えたのだという。

「再び戦争をしたい人たちを阻止していきたい」

だが、筆者は安倍政権内でも自身の周囲でも、再び戦争をしたい人などただの一人も知らない。少なくとも日本では、護憲派と改憲派などそれぞれの立場や考え方によって、平和を維持・確保するための方法論が異なるだけで、誰も戦争など求めてはいない。

8月29日朝に、北朝鮮が日本上空を飛び越える弾道ミサイルを発射し、政府が12道県で全国瞬時警報システム(Jアラート)を配信した際には、金子勝慶大教授がツイッターでこんな投稿をしている。

「まるで戦時中の『空襲警報』を一斉に流す。北朝鮮も怖いが、『戦時放送』を流す安倍政権も怖い」

また、9月3日の北朝鮮の核実験を受け、コラムニストの小田嶋隆氏は一応、北朝鮮を批判しつつも4日付朝日新聞朝刊にこんなコメントを寄せていた。

「安倍政権は、求心力を高めるために国防意識を強い口調であおっているようにも映る」

政府が北朝鮮のミサイル情報を国民にただちに伝えたことや、安倍首相ら政権中枢が北朝鮮の無法への憤りを口にしたことが、まるで問題のような言い草である。「安倍嫌い」をこじらせて、どんな事態、状況も安倍政権批判に結びつけなくては気が済まなくなってしまったのか。

評論家の石平氏は6日、自身のツイッターでこうはっきりと断じていた。

「『北を追い詰めたのは日米だ』と金正恩の立場を弁護したり、北朝鮮の脅威に対処するための自国防衛強化に難癖をつけたりする人はいる。そんなのはもはや平和ボケ程度のものではない。日本国民に対する犯罪だ!」

言葉はきついが、おおむね同感である。自国は信用できないが、他国は信頼しようと説く人たちの道連れにはされたくない。(論説委員兼政治部編集委員)

http://www.sankei.com/premium/news/170907/prm1709070007-n1.html

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