>>1の続き)

 朝鮮日報の「『北の核保有は容認』する一方、『韓国の戦術核には反対』するのか」(9月29日、韓国語版)、中央日報の「超党派的共助を望むなら、外交安保チームから正すべき=韓国」(9月29日、日本語版)など、他の保守系紙も社説で同じ趣旨――「米韓同盟を廃棄すれば、韓国は北朝鮮の言いなりになるしかない。それでいいのか」と訴えました。

 韓国の保守派は「左派の一部は北朝鮮の操り人形」と見なしています。北朝鮮も韓国に対し「米韓同盟を破棄せよ」と呼びかけ始めたからです。野党第1党、自由韓国党の洪準杓(ホン・ジュンピョ)代表は9月29日の会見で、文正仁発言を厳しく批判しました。その一部を訳します。

・言葉は正しく発せねばなりません。(今、起きかけているのは)戦争ではなく、北朝鮮の挑発であり(トランプ大統領の発言が意味するのは)挑発に対する懲らしめです。
・挑発への懲らしめを戦争と誇張し、国民を不安に陥れて韓米同盟を弱体化しようとする、戦争威嚇勢力の典型的な姿です。このような主張をする人の祖国がどこなのか、本当に聞きたいものです。

 最後のくだりを保守的な韓国人が聞けば「そうだ!やっぱり文正仁は北のスパイだ!」と和すと思います。

平和のために戦争を準備せよ

韓国は「文正仁批判」一色になったのですか?

鈴置:そうはなりませんでした。「韓米同盟を維持するために戦争に巻き込まれてもいいのか」との左派の主張に対し「戦争を覚悟しよう」と言い切れる人は少ないからです。

 「戦争を準備することが戦争を防ぐことだ」と理屈を説明されても、感情的に受け入れられない人がいます。ことに韓国では「情緒」が物事を決めるのです。その点を考慮してでしょう、洪準杓代表も「(これから起きそうなのは)戦争ではなく北朝鮮への懲らしめだ」と逃げを打っています。

 でも、米国が先制攻撃したら北朝鮮が韓国に対しても反撃する可能性が高い。そうなったら、全面戦争です。普通の韓国人もそれは分かっていますから、頭を抱えるのです。「北朝鮮の言いなりになって生きるのが嫌」な人も。

「戦争の覚悟」を訴える人は韓国にいないのですか?

鈴置:ごく少数ですがいます。趙甲済氏もそうです。政治家では1人の保守系議員――野党第3党の「正しい政党」の河泰慶(ハ・テギョン)最高委員が9月28日「戦争の覚悟」を訴えました。

 中央日報の「河泰慶議員『米に軍事オプションの排除を要請?……戦争の覚悟を』」(9月28日、日本語版)から、要約しつつ発言を拾います。

・米国の北朝鮮への圧力を我々が制止すれば、むしろ戦争の危険性が高まる。韓米同盟に亀裂が生じるためだ。我々に戦争の覚悟がなければ、状況を打開できない。
・「平和を望むなら、戦争を準備せよ」という言葉がある。平和を実現するために戦争を恐れてはならない。北朝鮮の狙いは我々が戦争を恐れることだ。そのために深刻な挑発も辞さないのだ。

「自衛権の発動」で北朝鮮を攻撃

米国の対北圧力を韓国が止めたら、なぜ戦争の可能性が高まるのでしょうか。

鈴置:日米韓のスクラムが崩れて対北圧力が弱まれば北朝鮮は図に乗って、ますます核武装に走る。すると米国は軍事力で阻止するしかなくなる――との判断です。

日米両国政府はまさにそう考え、動いています。

鈴置:しかし、韓国の左派は「日米韓のスクラムを崩せば、米国は軍事的な解決策をあきらめざるをえなくなり、対話解決の道が開ける」と考えるのです。

 文在寅大統領は8月15日「朝鮮半島での軍事活動は大韓民国だけが決めることができ、誰も大韓民国の同意なくして軍事活動はできません」と演説しました。米国の対北軍事行動に足かせをはめる狙いでした。

韓国が反対すれば、米国は北朝鮮への攻撃をあきらめるのですか?

鈴置:北朝鮮が米国まで届く核ミサイルを持った以上、米国は戦争を躊躇しないでしょう。米国は対北攻撃の必要があると判断した時は、韓国が何と言おうと攻撃を実施するというのが専門家の常識です。

 文在寅大統領の演説の直後、米軍の元幹部がVOA(アメリカの声)を通じ「韓国の意向に関係なく、やる時はやる」と声を揃えました。第2次朝鮮戦争は「米国VS北朝鮮」あるいは「米日VS北」の戦いなのです。「第1次」が「南北朝鮮の戦い」から始まったのとは完全に異なります。今回は「韓国はわき役」なのです。

 米国が北朝鮮を攻撃する際「自衛権の発動」を掲げると見られています。休戦中の朝鮮戦争を再開する形をとると、国連の決議も必要となりますし、戦争に反対する文在寅政権と相談する必要が出るからです。

(続く)