「法律家は憲法をこよなく愛します。憲法を守り、憲法を愛するとはどのようなことか。それは平和を愛し、平和を守り抜くということです」

平成26年10月、日本弁護士連合会(日弁連)が東京都内で開いた集団的自衛権行使に反対する集会。あいさつに立った日弁連執行部のメンバーは、日本国憲法への「愛」を惜しげもなく語ってみせた。

法律家なら愛し抜き、守り抜いて当然の対象が日本国憲法。この絶対の信奉には、憲法が信仰対象であるかのような印象すら漂う。

東大学派=u9条があるからこそ…」

「りっけんしゅぎ、みんしゅしゅぎ、へいわしゅぎ」。立憲・民主・平和主義の「憲法早口言葉」を幼い子供たちが唱和する。壇上では平和の象徴・ハトをイメージした手振りを、振付師のラッキィ池田が実演していた。

「一緒に踊って憲法を学んじゃおう!」。昨年4月、大阪弁護士会が催した啓発イベントの一幕。会報によれば、約260人の参加者のうち半数が「赤ちゃんから小学生」までの子供だった。当時の同会会長、山口健一(68)も着ぐるみ姿で踊りを披露した。

弁護士有志の草の根活動も活発化している。自民党が24年に発表した憲法改正草案に反対するため、翌年に設立された「明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわかの会)」。参加者が飲食しながら講義を聴く「憲法カフェ」を全国で開き、メンバーは当初の28人から約580人に増えた。「口コミでママ友を中心に広まっている」という。

日弁連と歩調を同じくした弁護士による護憲運動のうねり。その思想の源泉は、東大法学部系の憲法学者が中核を担ってきた戦後の憲法学だ−と多くの関係者が指摘する。

大阪弁護士会は昨年3月、東大法学部で教授を務めた樋口陽一(83)を招き、山口との対談を実施した。会報に「憲法学のレジェンド」と紹介された樋口は、平和主義を規定した憲法9条と現状がずれている−という改憲派の意見について、こう答えている。

「9条があるからこそ、今回の安保法制がそう簡単にはできなかった」

いかなる改憲案も敵視

27年6月の衆院憲法審査会の参考人質疑。安保法制、つまり集団的自衛権の限定行使を容認する安全保障関連法について、早稲田大教授の長谷部恭男(60)が「従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかない。(憲法が禁じる)外国の武力行使と一体化する恐れが極めて強い」と述べ、与党推薦ながら「違憲」と断じた。

長谷部は東大法学部で教授を務め、今は全国憲法研究会と日本公法学会のトップに就く憲法学の権威。その長谷部の指摘を機に、安保法反対派が俄然(がぜん)勢いづいたのは記憶に新しい。

長谷部は今年5月22日、憲法学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」のメンバーとして都内で記者会見に臨んだ。首相の安倍晋三(63)が憲法記念日の同3日、9条をめぐって戦争放棄の1項、戦力不保持・交戦権否認の2項を残しつつ、新たに自衛隊を明記する改正案を示したことについて、同会は「お粗末な提案」と批判する見解を発表した。

長谷部らは見解で「自衛隊はすでに国民に広く受け入れられた存在で、憲法に明記すること自体に意味はない」と指摘。改憲理由として、多くの憲法学者や政党の中に「自衛隊は違憲」との議論があると言及した安倍をこう指弾した。

「憲法学者を黙らせることが目的だとすると、自分の腹の虫をおさめるための改憲であって、憲法の私物化にほかならない」

「国家論がない」

現在、9条の政府見解では、1項は自衛戦争までは禁じておらず、2項では「戦力の保持は認められていないが、自衛のための必要最小限度の実力(自衛力)の保持は認められる」ため、自衛隊は「合憲」とする。ただ、改憲派の主流は、自衛隊が戦力=軍隊でないという解釈に欺瞞(ぎまん)を訴え、日本の平和と安全を守る「軍」と位置づける9条の全面改正を志向する。

それに比べ、自衛隊の存在を明記するだけという、改憲派の主流から見れば物足りない安倍の加憲案≠ナすら、憲法学者は一顧だにせず、反対するのだ。

http://www.sankei.com/west/news/171016/wst1710160004-n1.html

>>2以降に続く)