神奈川県内の東名高速道路で夫婦が死亡した事故の影響で、日本では“あおり運転”が社会的な問題となっている。

前方の車との距離を詰めるなどの“あおり運転”は、車を運転したことがあるドライバーなら一度は経験したことがあるであろう身近な問題だ。

警察庁によれば、道路交通法違反の車間距離不保持で摘発されたケースは7625件(2016年)に上るという。あおられた経験のあるドライバーが過半数に上るという報道もあっただけに、社会的な関心が集まるのも当然かもしれない。

実は“あおり運転”が社会問題となっている国が他にもある。お隣・韓国だ。

韓流スターやアイドルも被害に

韓国では“あおり運転”ではなく、“ポボク(報復)運転”と呼ばれている。

相手の車を追いかけまわしたり、相手の車の前でスピードの加速と減速を繰り返して威嚇したりするだけでなく、最後はわざと急ブレーキを踏んで追突事故を起こさせるというのだからタチが悪い。自分の命にも関わりかねない、狂気じみた危険行為を行っているのだ。

そもそも韓国は日本に比べて交通事故が多いことで知られている。若干数字は古いが2013年の交通事故の件数を見ると、日本は62万9021件(警察庁交通局)、韓国は111万9280件(韓国道路交通公団)だ。

交通事故そのものが多いため、韓流スターやアイドルが交通事故で命を落とすといった悲報が数年に一度は入ってくる。

危険な報復運転、原因は“怒り調節障害”か

それに加えて、最近の報復運転である。韓国では昨年7月から報復運転の処罰を強化した。

しかし、韓国警察庁の資料「報復運転摘発現況」によれば、申告件数は4969件、検挙者は2168人となっている(2016年)。

一日13.6件の報復運転が発生し、6人が検挙されていることになる。2015年の検挙者数が927人であることからも、急増していることがわかるだろう。

「普段は穏やかなのに、ハンドルを握ると別人になる」という話はよく聞くが、韓国では別人どころか犯罪者になってしまうといっても大袈裟ではないのだ。

起亜自動車のブログ『K-PLAZA』のアンケートによると、「運転中に相手運転手に怒りを覚えたことがある」と答えた人は全体の76%もいたという。そのうち20%は、報復運転をしてやろうという衝動を感じたというのだから、穏やかではない。

「韓国の成人男女の半分以上は怒りの調節が難しい」という韓国精神健康医学会による調査結果にみられる短気さが、報復運転の一因なのかもしれない。

思い込みも原因のひとつ

また、報復運転が増加した理由として専門家が口をそろえるのは、「車=自分の価値」という社会的な風潮にも原因があるという。

韓国の自動車CMは「車は男の存在感」「他人の嫉妬は、あなたにとってチャンス」といったコピーが多く、車は道路の上ではなく、砂漠や海の砂浜を颯爽と猛スピードで走っている。

そういった広告を目にすることで、無意識のうちに「自動車は自分の価値」という意識を潜在的に持つようになり、進む先を邪魔されると自分の価値が否定された、侮辱されたと感じてしまうのだという。

あまりに勝手な思い込みだが、韓国人の90%が“認知バイアス”に該当するという調査結果もあるだけに、影響があるのかもしれない。

いずれにしても、韓国には報復運転だけでなく、“ 高齢ドライバー問題”などもあり、交通事故関連の問題は非常に深刻といわざるを得ない。

日韓ともにこれ以上、交通事故による不幸な犠牲者が出ないことを願うばかりだ。

慎武宏
ライター/S-KOREA編集長
1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinmukoeng/20171021-00077164/