10月31日に韓中両国政府が発表した、いわゆる「THAAD(終末高高度防衛ミサイル)合意文」は当初から違和感があった。交渉代表者の格を合わせるのは外交交渉の基本なのに、それが全く釣り合っていなかった。韓国側代表の国家安保室・南官杓(ナム・グァンピョ)第2次長は次官級で、韓国の最高権力府である大統領府の中核を担う人物だ。それに対して中国側が代表として外務次官補を出してくるのはどういうことだろうか。

 中国外務省ホームページの「主要官員」ページには、外相(長官クラス)の下で働く幹部が序列通りに並んでいる。次官級4人と中国共産党中央紀律検査委員会派遣の紀検組組長が1人いて、次官補5人はその後ろに出てくる。今回の「THAAD問題交渉」で中国側代表を務めた孔鉉佑・外務次官補桁は下から3人目だ。中国外務省で5本の指に入らない人物が韓国大統領府安保室首脳部3人のうちの1人の相手をしたというわけだ。

 韓国大統領府は「2014年に日中で起こった領有権問題など、中国政府が推進してき重要交渉を担当し、中国外務省内で非常にタフな実力派として知られる孔鉉佑次官補」と相手を褒めたたえた。外交関係者の間で評判を聞いてみると、確かに孔鉉佑次官補は14年の日中交渉で実務代表を務め、手柄を立てたという。同年、中国は日中首脳会談を希望していた日本と交渉し、東シナ海の尖閣諸島(中国名:釣魚島)の領有権について「意見が異なることを認識する」という合意文に同意させた。日本は「領有権問題は存在ない」という原則を固守したと考えていたが、合意文発表後、中国は「日本は領有権問題の存在を認めた」と宣伝した。

それでも、日本はこの時、合意文の内容でしてやられたとは言え、「担当者の格による外交」では譲歩しなかった。孔鉉佑次官補の実務交渉相手は杉山晋輔外務審議官=当時=だった。日本の外務省の序列1位から6位までは政治家出身の大臣(長官)、副大臣2人、政務官3人だ。これとは別に、外交官出身の事務次官がいて、その下に次官補クラスの外務審議官が2人いる。中国の次官補と日本の外務審議官はそれぞれの国の外交担当省の序列上、同等の格だ。合意文の最終発表者も中国側が楊潔チ国務委員(外交担当)、日本側が谷内正太郎・国家安全保障局長で、格が釣り合っていると言える。

 ところが、韓国は大統領府が下級機関の中国外務省を相手にしながら、THAAD報復に対する言葉の一つも引き出せなかった。中国はこれをどう考えているのだろうか。THAAD合意の発表があった日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹紙「環球時報」は「文在寅(ムン・ジェイン)政権は戦略上、冷静さを見せた」と賞賛する一方で、「しかし、韓国社会の一部には今も冷静になれない勢力があり、対外的に謙虚になることの重要性を知らない」と書いた。また、中国の主権侵害に堂々と謝罪を要求すべきだという本紙社説に言及し、「どこからそんな『牛劲(ニウジン=強情さ)』が出てくるのか分からない」とも書いた。韓国の外交は中国から「謙虚だ」とお褒めの言葉をいただいたり、「強情だ」と批判の言葉を受けたりしなければならないのだろうか。その答えは明らかだろう。

政治部=金真明(キム・ジンミョン)記者

2017/11/04 05:03 朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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