https://news.yahoo.co.jp/byline/kimmyungwook/20171212-00079192/

 東アジアの王者を決める歴史ある大会を前に、なんとも後味の悪いニュースが飛び込んできた。

 東アジア・サッカー連盟会長を務める日本サッカー協会の田嶋幸三会長が7日、東アジアE−1選手権に出場する男女の朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮代表)には大会の賞金が支払われないと明らかにしたのだ。

「われわれ(東アジア連盟)としては国際情勢、国連決議を踏まえて支払うことはできないと決めている」

 田嶋会長はそう言いつつも、北朝鮮代表の入国が特例で認められたことについて、「東京五輪の前に、日本ではスポーツと政治が離れていることを示すいい機会。政府には感謝している」と述べていた。

 スポーツと政治が離れていることを示すのであれは、大会に参加した北朝鮮代表に賞金を支払うべきで、発言自体がかなり矛盾しているとも思えるのだが……。

 それこそ、アジアのサッカーをけん引してきた日本サッカー界の長でもある日本協会会長の発言だっただけに、かなり残念でならない。

「本来、賞金未払いを呑むわけがない」

 当初、この報道が出たとき、私は「北朝鮮協会は賞金が出ないのを了承したうえで来日した」と思っていた。そのことについて、北朝鮮サッカー協会関係者に確認すると「本来はそんな条件を呑むわけがない」とはっきりと言っていた。

 つまり、北朝鮮代表チームが来日したあとに、東アジア・サッカー連盟が北朝鮮に賞金を支払わないことを決めたということになる。

 それが事実だったとして、そもそも賞金を支払う意思がなければ、最初から北朝鮮代表を呼ばなくても良かっただろう。

 ただ、北朝鮮代表はこの報道があったあとも、通常通りの日程を消化する形を取った。

 北朝鮮代表は初戦の日本代表を相手に、好機を何度も作り出して相手ゴールを脅かした。日本のGK中村航輔(柏レイソル)がビッグセーブを連発し、北朝鮮は最後まで得点することができず、ロスタイムに日本の井手口陽介(ガンバ大阪)に決められて0−1で敗れた。

 北朝鮮代表にはJ2プレーヤーが3人おり、そのうちのカマタマーレ讃岐の李栄直がスタメンフル出場し、ロアッソ熊本の安柄俊も途中出場して、試合を盛り上げた。

 Jリーグでプレーする選手が北朝鮮代表にいることから、日本のサッカーファンも十分に楽しめた試合だっただろうし、北朝鮮に対するイメージも大きく変わったに違いない。

 そんなすがすがしい試合とはまったく関係のない「賞金未払い問題」から、大きな誤解が生まれているのも事実だ。

W杯出場後、国を挙げて強化

 もっとも、東アジア・サッカー連盟が賞金を支払わないと決めた理由は「もしかしたら(賞金が)核やミサイル開発に使われるのかもしれない」と考えるのが一般的だろうか。

 正直、サッカー大会で得られた賞金をミサイル開発に使うとはとても考えにくい。

 というのも、北朝鮮は国をあげてサッカーの発展のために多額の強化費を投入しているからだ。すべては世界のサッカーシーンに登場するためだ。

 北朝鮮国内のサッカーを取り巻く状況が大きく変わったのは、2010年南アフリカW杯に44年ぶりに出場を決めてからだ。国民のサッカー熱や関心が大きく高まり、その後、国がサッカー強化のために全面的なバックアップを始めた。

 私が平壌で実際に目にしてきたサッカー施設には、確かに多額の投資が行われていた。それは国の支援だけでなく、国際サッカー連盟(FIFA)の協力も大きい。

中略

金明c スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子ゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子ゴルファーと親交を深める。特にイ・ボミとは人気が出る前から周知の仲で、今では周囲から“ボミお抱えライター”と揶揄されるほど。現在はサッカー、ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。