●「チーズタッカルビ」が飽きられる日

 16年2月に「チーズタッカルビ」を発売すると、タレの辛さをとろけたチーズが和らげてくれるので、辛いのが苦手な人でも食べやすいと人気が沸騰。チーズの両脇をタッカルビで挟むスタイルで提供したので、視覚的にも鮮やか。写真を撮ってSNSに投稿する人が急増した。

 姜部長はそれでも商品開発の手を緩めず、1500人のモニタリングを行い、チーズをナチュラルチーズから、モッツァレラチーズとチェダーチーズの2種類を使う形式に変更した。

 そして、16年6月には店名を「市場タッカルビ」に変更。元祖チーズタッカルビの店として再スタートを切った。その頃には、4時間待ちも当たり前の大行列店となり、通行の邪魔になると苦情が絶えず、毎日のように警察官が出動するようになった。そこで、系列店の「ハンサラン」と「bb・q」でもチーズタッカルビを販売するようになり、売り上げが倍増した。当時は閑散としたコリアン街で、市場タッカルビだけが1人勝ちしている状況だった。

 行列を解消するために、予約を取らず、一度店に来て名前と人数を書いてもらい、席が空けば携帯に電話を掛けて案内するシステムに変更した。

 そうすると、顧客は待っている間にコリアンタウンを周遊するようになり、街全体に波及効果が生まれていった。そうした中で、韓流のアイドルや化粧品も見直されていったのだ。

 16年末から17年初頭には、コリアンタウンの飲食店がチーズタッカルビを一斉にマネするようになり、あっという間に、どの店も看板に掲げる状況になった。

 今や平日の午前中からコリアン街は賑わっているが、課題はある。あちこちの店でチーズタッカルビを売りにしているため、結果的に過去最大の「味の平準化」が起こってしまったからだ。

 ある時、一気に飽きられるか。それとも、もんじゃ焼一本で集客し続けている月島のもんじゃ街のように、繁栄し続けられるのか。気まぐれな日本の若い女性の消費者たちは、いつまでもチーズタッカルビに熱中するほど、甘いだろうか。

 コリアン街が自滅すれば、牛丼チェーン、ファミレス、コンビニがチーズタッカルビを売ることもなくなるだろう。

(長浜淳之介)