たしかに、この中堅幹部の言う通り、吉木誉絵がこれまでに発表した論文、あるいは論考は短いコラムを除いて、ほとんど見当たらない。にもかかわらず、2016年6月に突如、海幹校の客員研究員に就任した〈後〉からは、自衛隊三軍の事実上の〈制服〉トップである河野克俊(統合幕僚長)や、米軍のジョセフ・P・アゥコイン(第7艦隊司令官)のインタビューを保守系月刊誌の『Voice』で発表している。

ではなぜ、吉木は、奥山真司に匹敵する他の本物の研究者たちを差し置いて客員研究員の座を射止めることができたのか――事態を危惧する防衛省OBのひとりが〈真相〉を口にした。

「大塚海夫さん(海幹校・校長)に指示して、吉木誉絵を海幹校に押し込んだのが、武居さんだったと聞いて驚きましたよ……」

この発言には、取材班も驚いた。武居智久は(統幕長就任を有力視されていた)元海上幕僚長(第32代海幕長)にして、現在、日本人として初めて米国・海軍大学の教授を務める自衛隊きっての〈知米派領袖〉である。その武居がどうして、学問的な実績もない、ただのタレントを海幹校に推薦したのか。

「海自は、いまボロボロなんです。まず、武居さんの前の海幕長(第31代)、河野克俊さん(現統合幕僚長)は、もっとも過激な保守系論壇誌といわれる月刊『WiLL』を発行するワック・グループの鈴木隆一(社長)と、毎月のように食事会やゴルフをするほど昵懇。ワック・グループには、科学番組『ガリレオX』などを製作する映像部門があり、昔から自衛隊関連のDVDなどを製作しているため、河野さんをはじめ、現在の自衛隊三軍の最高幹部は、中堅時代からの長い付き合いで、ほとんど身内といっても過言ではありません。
ただ、この〈人脈〉と、今回の吉木案件は、直接には繋がっていません。というのも、吉木は竹田恒泰(明治天皇の玄孫/評論家)の後援組織〈竹田研究会(学生青年局)〉事務局長を務める、いわば竹田の愛弟子だからです。そして、自衛隊はもともと〈明治天皇の玄孫〉を売り物にする竹田とは、一定の距離をおいていました。
私が危惧しているのは、いわゆる(自衛隊内部の)旧来の保守グループではない、中堅若手の〈新たな保守グループ〉が台頭しつつあり、海自きっての知米派の武居さんが、その精神的支柱に祭り上げられているのではないかということです」(前出OB)

だが、疑問はある。というのも、このOBによると、吉木誉絵は旧来の保守グループとは違うらしいが、河野統幕長と昵懇の『WiLL』2017年8月号には、〈平和を欲するなら戦いに備えよ〉という吉木のインタビュー記事が掲載されている。