中国国有の移動通信インフラ事業会社「チャイナ・タワー(中国鉄塔)」が、香港の株式市場で最大87億ドル(約9600億円)規模の新規株式公開(IPO)を実施する準備を進めています。2014年のアリババ・グループ・ホールディングス以来で最大となる規模のIPOとなり、その先には中国全土で「5G通信網」を大々的に整備する計画が練られているのですが、その規模はアメリカが脅威を感じるレベルに達している模様です。

China's $9 Billion Plan to Boost 5G Undermined By Trade War - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-07-24/china-s-9-billion-plan-to-boost-5g-undermined-by-trade-war

チャイナ・タワーは「チャイナ・モバイル」「チャイナ・ユニコム」「チャイナ・テレコム」の通信各社が共同で設立していた合弁企業で、各社が保有している基地局などの通信インフラ資産を譲り受け、その後は各社にリースする形で設備を提供する予定となっています。各社の設備を統合する目的は「効率化」にあり、それぞれがバラバラで投資を行うことで生じる無駄を省くために、国有企業がインフラ整備を進める体制がとられます。

この計画の背後には、習近平国家主席が掲げる「5Gネットワークのパイオニアになる」という目標が存在します。4G LTEネットワークをはるかに超える高速通信網を整備することで、膨大な量のデータ通信が必要な自動運転カーに必要なインフラが整備されるほか、人々の生活では、わずか数秒で映画を丸ごと一本ダウンロードできるようになるなど、社会全体の利便性が大きく向上するとみられています。この方針は、中国が製造強国になることを目指す「メイド・イン・チャイナ2025」計画の一角を成すものでもあります。

RIETI - 「製造強国」を目指す「メイド・イン・チャイナ2025」計画
https://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/150804sangyokigyo.html


しかし、アメリカと中国の間で生じている貿易摩擦がこの計画に影を落とそうとしています。「貿易戦争」と呼ばれることもある米中の関税バトルを受けて、香港ハンセン株価指数が14%低下するなど、市場にはリスク感が強く漂っています。香港に拠点を置くChina Securities Internationalのアナリスト、スティーブン・リゥ氏は「貿易戦争がマーケットの心理に影響を与えており、ひいてはチャイナ・タワーのIPOにも影響が及ぼうとしています」と述べています。

アメリカは、チャイナ・タワーの動きに一定の危機感を抱いていると分析する専門家も存在します。また、Bloomberg Intelligenceのアナリストであるデニス・ウォン氏は「このタイミングで5Gネットワークの整備と『メイド・イン・チャイナ2025』を推し進めることは、センシティブな問題です。その取り組みは、アメリカの神経を逆なですることになるでしょう」と述べています。

チャイナ・タワーのIPO資料や市場動向をもとにBloombergが作成したグラフによると、世界的通信インフラ大手の年間売上規模は以下の通りとなっており、チャイナ・タワーが103億ドル(約1兆1500億円)でトップを独走する見込み。2位と3位にはアメリカの企業、4位にはインドの企業が入りますが、チャイナ・タワーの規模は他社を圧倒しているといえます。


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GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20180725-china-boost-5g/
続く)