「高校生が企画・運営するダンスイベントがあるので、告知の協力をしてもらえませんか」
15年秋、地元の後輩から連絡があった。面白そうだと思い、会社で会うことになった。

■「新聞は真実を伝えない」

応接室にやって来たのは高校3年生の2人組。
学校が終わると、ストリートでダンスの練習をしているという。

眼鏡を掛けて、私より少し高い165センチほどの背丈。
制服の白シャツは彼らの細身の体を持て余していた。

「学校の外でも活動している高校生の披露の場がないので、自分たちで企画しました。多くの人に来てほしい」。
スポンサーも自分たちで集めてきた17歳を応援したいと思った。 

「ネットは新聞紙面で掲載した後にアップしますね。今日は来てくれてありがとう」。
私がペンとノートを鞄にしまい、彼らと一緒に部屋を出ようとしたところ、2人が顔を見合わせてから、こう言ってきた。

「あの、新聞って本当のことが載ってなかったりするんですよね。ネットだけに出してもらえませんか」。
事態をのみ込めず、話を聞いた。まとめるとこうだ。

彼らは情報をネットから収集している。
メッセージアプリのLINEで流れてくるニュースは読む。

ネットで沖縄の新聞は事実と違うことを書いていると読んだことがある。
ニュース系でよく見ているのは YouTube の「KAZUYA Channel(カズヤチャンネル)」。
新聞は読んだことあるのかと聞くと「紙は今まで一度もない」ことが分かった。

カズヤチャンネルは、今年9月18日現在、登録数が53万3448人にも上る人気チャンネルだ。
保守系の論客、KAZUYA氏が時事問題や歴史を解説する。
18年5月頃から、YouTubeの利用規約に反するという通報が相次ぎ、差別動画の多くが見られなくなっているが、若者を中心に支持されている。

若者は「マス」メディアにほとんど触れなくても、YouTubeは見ている。
5分程度でニュースを解説するカズヤチャンネルの手軽さもある。
沖縄に限ったことではなく、スマホの登場で接触する媒体が「地元」から「全国」に移り、地元に根差した歴史、地元特有の考え方に触れにくくなっている。

ちょうど同じ頃、基地問題を学ぶあるイベントで知り合ったのは、普天間飛行場の移設で揺れる名護市辺野古にある沖縄工業高等専門学校に通う学生だった。
彼もカズヤチャンネルを見ていた。

辺野古のゲート前では、早朝から移設に反対する人たちの座り込みで渋滞が起き、その影響で遅刻する学生が出始めていた。
ツイッターでは、若者たちが反対する人たちへの批判の声を書き込んでいた。

イベント会場で「沖縄タイムス」の腕章をしていた私の所にその学生はすっと寄ってきた。
小声で「記者さん、僕たち、学校遅刻するから迷惑なんだけど、それも書いてよ」と話し始めた。

「なんで今日このイベントに来たの?」
「いや、おじーおばーがあんなに一生懸命反対しているから、理由を知りたかった」
「基地ができた歴史とか、辺野古に新しい基地を造ろうとしている経緯を知らないの?」
「全然分からない」

沖縄が分断されていく予感がした。
ふるさとの歴史を知っているか、そうでないか。情報源が地元のマスメディアか、ネットか。

基地があることに賛成か、反対か。
さまざまな事象が錯綜している。
ただ、これらは沖縄において、基地のことをリアルな場で語りにくい現実にも起因している。

※記事を一部引用しました。全文はソースでご覧下さい。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/09/post-11029_1.php