北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の韓国訪問が年内にあるのか、どうか−。何しろ、「電撃通知」「電撃妥結」「電撃合意」が大好きな民族内部のことだから、現時点では判断しかねる。

ただ、実現したら、韓国型高速鉄道(KTX)に、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、正恩氏とともに乗り込むパフォーマンスを企画していたことは容易に想像できる。

 同国北東部、江陵(カンヌン)市で8日に発生したKTXの脱線事故は、そうした企画があったからこそ、文政権にとって「大ショック」になったのではないか。

 負傷16人−。「危険不感症国家・韓国」では、何ということもない鉄道事故だ。それなのに、大統領まで乗り出してきて「原因究明、対策遂行」を指示したことは異様でもある。

 正恩氏の妹である金与正(キム・ヨジョン)労働党第1副部長は、平昌(ピョンチャン)冬季五輪で訪韓した際、KTX江陵線に乗った。4月に電撃的に行われた板門店(パンムンジョム)での南北首脳会談では、正恩氏が「平昌五輪に行った人たちは『KTXがいい』と言っていた」「文大統領が(北朝鮮に)来られたら、北側の交通が不備で不便を感じさせそうだ」などと述べた。

 文氏は「北側と鉄道が連結されれば、南北がともに高速鉄道を利用できる」と応じた。

 この流れが、「正恩氏が韓国に来たら、大統領とともにKTXに乗り込む」との観測に結びついた。KTXの輸出に腐心する韓国としては、絶好のPRになる。

 そこに脱線事故だ。KTXの脱線は3回起きているが、「危険不感症国家」では徹底した原因究明すらなかった。

 今回はなぜ大統領まで乗り出してきたのか。江陵線は開通1年とたっていない新線だからか。いや、「北朝鮮の最高尊厳」(=正恩氏のこと)をお乗せするつもりでいたからだろう。

ところで、脱線原因は何なのか。目下のところ「線路を切り替えるための信号装置の接続が間違っていたため」とされる。それなら同種の事故が多発していたはずだと問い詰められると、「誰かが接続部分をいじったのだろう」となった。

 そんな大切なシステムを「誰か」が簡単にいじれるのかとなると、事故調査委員会の関係者から出た発言は「設計からして間違っていた」。

 国会議員の一括補選と統一地方選の大惨敗で、仮死状態だった保守勢力は「鉄道公社への天下り人事、天下りした社長による過激派組合員の復職措置などが背景にある」と始めた。

 鉄道公社社長は元国会議員で、文氏の“お友達人事”で社長に就いた。今回の事故では現場に到着するや、「寒さでレールが異常をきたしたためだろう」との珍説を打ち上げて恥をかき、11日には辞任を表明した。

 KTXはエンジンから出火したこともある。鉄道公社は消火が終わると、原因究明もないまま列車の運行を続けた。

 年末年始に韓国旅行に行く日本人もいるだろう。「危険不感症国家」では、乗り物にも、建物にも、ボッタクリにも、よほどの注意が必要だ。

 ■室谷克実(むろたに・かつみ) 1949年、東京都生まれ。慶応大学法学部卒。時事通信入社、政治部記者、ソウル特派員、「時事解説」編集長、外交知識普及会常務理事などを経て、評論活動に。著書・共著に『悪韓論』(新潮新書)、『崩韓論』(飛鳥新社)、『韓国リスク』(産経新聞出版)など多数。

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/181213/soc1812130005-n1.html
夕方フジ 2018.12.13