【香港=木原雄士】香港の民主派団体は9日、中国本土に刑事事件の容疑者を引き渡せるようにする「逃亡犯条例」の改正案に反対する大規模なデモを実施した。中国に都合の悪い人物が引き渡しの対象になる恐れがあるとして市民の反発が強まっている。主催者によると参加者は50万人を超え、1日のデモとしては1997年の中国返還以来、最大規模に膨らんだ。香港政府は6月中に立法会(議会)で成立させる方針で、対立が激しくなりそうだ。

参加者は改正案への反対を意味する「反送中」などのプラカードを掲げ、香港島のビクトリア公園から立法会まで行進した。デモに参加したグラフィックデザイナーの王映晴さん(24)は「中国は香港の政策に干渉して、自由を奪ってきた。改正案が通れば、国際都市としての香港が終わってしまう」と話した。

条例改正案は中国当局の求めに応じて香港で拘束した容疑者を中国に引き渡せるようにする内容だ。台湾で殺人を犯した男が香港に逃げ帰った事件を踏まえ、香港政府は「法律の抜け穴を防ぐ必要がある」と主張している。

ただ、中国の司法制度は著しく透明性に欠けるとの批判が強い。人権団体などは政治犯が無実の罪で投獄されていると批判している。香港でも条例改正をきっかけに、中国に批判的な活動家や中国ビジネスでトラブルに巻き込まれた企業関係者などが移送の対象になりかねないとの見方が出ている。メディア業界も中国に批判的な報道をしにくくなると懸念している。

民主派だけでなく経済界や法曹界、欧米諸国から懸念の声が相次ぎ、香港政府は引き渡しの対象となる犯罪を絞り込んだ。月内にも立法会で可決させる方針だ。

香港は高度な自治を認められた一国二制度のもと、中国本土とは異なる司法制度を維持してきた。司法の独立性は欧米企業が香港に拠点を置く理由の一つになっており、今後の企業立地などに影響を与える可能性がある。デモに参加した投資アナリストの李さん(24)は「条例改正が通れば、香港は中国本土の下に置かれた単なる一都市になってしまう」と危機感をあらわにした。


日本経済新聞 2019/6/9 18:31 (2019/6/9 21:44更新)

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デモ参加者は逃亡犯条例の改正に反対した(9日、香港)

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デモでは林鄭月娥・行政長官の辞任を求める声も目立った(9日、香港)

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デモ参加者はさまざなボードを掲げて行進した(9日、香港)