■対地攻撃用軍艦で日本の広域を攻撃可能に

韓国で海軍大増強計画がスタートした。当然ながら韓国は自国の国防方針に基づいて海軍力の強化を推し進めるのであって、日本がとやかく言う筋合いの問題ではない。

とはいえ、文在寅政権による対北朝鮮融和姿勢、韓国海軍によるレーダー照射事件、それに韓国によるGSOMIA破棄などの諸状況を鑑みると、韓国海軍が手にしようとしている軍艦の中には、日本を仮想敵国と意識しているのではないかと勘ぐらざるを得ないようなものが含まれている。日本側としてはそれらの建造計画には関心を示すのは無理からぬところと言えよう。

■プライドのための航空母艦建造か
 
韓国海軍増強計画で建造が予定されている軍艦の中で一般的に注目されているのは、航空母艦である。航空母艦といっても、海上自衛隊の「いずも型」ヘリコプター空母より若干大型の30000トン級空母が建造されることになっている。

韓国軍は、現時点ではSTOVL戦闘機をはじめとする艦載固定翼機を保有していないし、国産戦闘機(KFX)開発計画にもSTOVL機は含まれていないようである。

しかし、ヘリコプター空母として建造した「いずも」や「かが」を、艦載固定翼戦闘機を運用するために大金と時間をかけて改装するといった、日本の軍事的失敗と税金の無駄使いをしている状況を目の当たりにしている韓国は、当初よりヘリコプター空母ではなく、STOVL戦闘機の運用を前提とする航空母艦として設計し建造を進めるものと思われる。

韓国海軍が航空母艦を保有する表だった理由は次のようなものだ。

「北朝鮮沖合の洋上から戦闘機を発進させることができるようになれば、北朝鮮へ接近する韓国軍航空戦力のベクトルが増加する。そのうえ、北朝鮮軍の対艦攻撃能力はいまだに弱体であるため、航空母艦は有用な対北朝鮮側面攻撃用アセットとなる・・・」

とはいっても、北朝鮮は潜水艦戦力を強化しつつあるし、地対艦ミサイルの開発能力も十二分に保有していると考えられる。そのため、航空母艦が誕生する頃には、北朝鮮沖に航空母艦を展開させるといった運用が可能かどうかは疑わしい。

このように、戦略的に十分な説明がつかない「派手な軍艦」を誕生させるということは、単に国家のプライドを満足させるためである場合が少なくない。すなわち、韓国海軍は海上自衛隊との名声競争に打ち勝ち、韓国のプライドを保つために軽空母を建造しようとしている、としても不思議とはいえないのである。

■深刻な脅威となり得る軍艦
 
たとえ韓国海軍が日本より素晴らしい航空母艦を手にしたとしても、日本の海軍力や航空戦力、それに地対艦ミサイル戦力や防空ミサイル戦力などを考えると日本にとって深刻な脅威とはなり得ない。

しかしながら、韓国海軍増強計画で生み出されることになっている軍艦の中には、日本にとって深刻な脅威となり得るものが含まれている。

それは、KDX-III batch-2駆逐艦、統合火力支援艦、KSS-III batch-2潜水艦である。

KDX-III batch-2駆逐艦は、現在韓国海軍が運用しているKDX-III(世宗大王級)イージス駆逐艦に弾道ミサイル防衛能力を持たせることが最大の“セールスポイント”になっている。そのため、アメリカ製(レイセオン社製)SM-2、SM-3 Block-IB、SM-3 Block-IIA、SM-6などの防空ミサイルを搭載するイージス駆逐艦ということになる。ただし、日本側が危惧すべきは、128セルVLS(垂直発射装置)を装備するこの軍艦には、防空ミサイルだけでなく対地攻撃用長距離巡航ミサイルが搭載される可能性があるという事実である。

2019.9.5(木)北村 淳:軍事社会学者
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