「韓国経済、50年で最悪の状況」と英フィナンシャル・タイムズ(11月29日付)に論評された韓国経済に、今何が起こっているのか。
韓国経済を国民生活の視点から切り取った『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)の著者、フリージャーナリストの金敬哲氏に聞いた。

いま、韓国では「ヘル朝鮮」という言葉が流行しています。

「地獄(HELL)のような韓国社会」という意味で、わざわざ「韓国」ではなく「朝鮮」としているのは、
14世紀から続いた朝鮮王朝時代のような「前近代的な国」という自虐の意味が込められています。

1997年のIMF危機以降、韓国では新自由主義的な政策が続けられ、国民の間に経済格差が広がり社会問題になっています。
「この状況を変えて欲しい」と、国民から希望を託された文在寅政権でしたが、経済政策の失敗が続き、国民の期待は裏切られた格好です。

経済が悪化した結果、いまの韓国は、社会のどこにいても激しい競争が求められる上に、
生まれた瞬間から“階級”が決まってしまっているような閉塞感に包まれています。これが「前近代的」というわけです。

若者の就職率の低下は深刻です。韓国の大卒(文系)の就職率は、56%。そのため就職活動は熾烈です。
インターンシップでさえ倍率は異様なほど高騰しています。大手財閥系企業なら数百倍にもなります。

激しい競争の中で、いかに自分が優秀かを示さなければいけない。韓国の学生たちは、就職に必要なスキルや資格のことを「スペック」と呼びます。

韓国の大学生に就職に必要な「8大スペック」とよばれるものがあります。その内訳は、「出身大学」「成績」「海外語学研修」
「TOEICの成績」「大手企業が開催する公募展」「資格」「インターン」「ボランティア活動」。

学生時代にこれだけ幅広いスキルを身につけるとなれば、時間が必要です。いまの大学生たちに話を聞くと、
最近は「時間がもったいない」という理由で、友達づきあいも避ける学生もいる。
友人や恋人と食事に1時間費やすより、10分でコンビニのご飯を食べて、残りの時間はスペックを磨くことに使うのです。

当然ながら、それだけ教育にお金がかかりますから、家の経済力も重要です。いま、韓国では「スプーン階級論」という言葉が使われています。
「スプーン」とは生まれた家の経済力のこと。「金のスプーン」を持って生まれたら一生裕福ですが、「土のスプーン」では生涯貧乏。
経済格差が広がり、生まれた瞬間から「自分がどこまでスペックを積めるか」が決まっているように感じてしまう社会なのです。

ここまで追い込まれた韓国の青年たちは、自分たちの世代を自嘲的に、「N放(ポ)世代」と呼びます。
「放」とは、韓国語で「諦める」という言葉の頭文字です。

2011年に恋愛、結婚、出産を諦める「三放世代」という言葉が韓国で流行ったのですが、その3つ以外にも、
就職、マイホーム、人間関係、将来の夢、さらには自分の人生そのものまで……不定数の「N=すべて」を諦めた世代という意味です。

こんな環境では、2018年の出生率が世界初の0人台を記録したのも不思議ではありません。
2019年7〜9月では、ソウル市の出生率が0.69となりました。少子高齢化が信じられないスピードで進んでいるのです。

高齢者に目を転じても、格差社会が広がっています。高齢者の貧困は大問題になっています。

老人貧困率はOECDで最も高い46%。韓国で国民年金制度が本格的に導入されたのは、1988年。
そのため、国民年金を受け取っている老人は、全体の42%にすぎません。老人の2人に1人は、政府が所得の低い老人に配る最大30万ウォン
(約3万円)の基礎年金を含めても、月の生活費が100万ウォン(約10万円)に届きません。

その結果、韓国は、高齢者が世界で最も高齢まで働かざるを得ない国になりました。
OECDの資料では、労働市場から完全に離れる引退年齢が、2017年時点で男性が72.9歳、女性が73.1歳です。

韓国も日本同様、60歳定年が一般的です。「定年からさらに10年以上働くのか」と思うかもしれませんが、実際はもっと長い。
というのも、韓国企業は社内も実力主義で競争が激しく、50代前半には退職させられるケースが多いのです。サムスン電子など財閥大手は30代後半でクビも珍しくありません。

韓国人男性の人生を指して、「起−承−転−チキン」という言葉があります。
学歴が高卒であれ名門大学卒であれ、大手企業に入っても中小企業でも、最後には「チキン屋」になるという意味の言葉です。
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