しかし、韓国の病理の一つといえる権力者家族の優遇に、本人の関与は定かではないものの手を染めた面があり、彼は国民の批判を浴びることになった。そして、日本においては文政権を批判する保守派の主張が主として紹介され、上掲のチョ氏の従来の成果がほとんど報じられなかったため、韓国で彼の法相就任に際して世論がほぼ二分されたにもかかわらず、日本のメディアではチョ氏への非難や嘲笑のみが広がることになった。

 これは大変危険な状況といえる。例えば、アメリカにおいてはオバマ大統領を生んだ側面と、トランプ大統領を生んだ側面が同居している。国や社会は多面的なものであり、それらを俯瞰できてこそ実態を捉えることができる。しかし、一側面のみを強調し、それを同国の全てだと捉えてしまえば、結果的に判断を誤ることとなる。日本で起きているのは、そうした状況なのである。

 現在、安倍政権と文政権が対立しているのは確かである。そして、安倍政権やその周辺から繰り返し強硬な発言がなされ、韓国がとる論理を「国際法違反」の一言で一顧だにせず否定する中で、社会全体に韓国への反感が広がり、読者や視聴者の望むもののみをメディアが選択するようになった構造があるのではないだろうか。そこでは客観性のある報道や、バランスのとれた情報周知よりも、文政権を叩くことが重視され、韓国での反文在寅(反リベラル=保守派)の強硬な言説が重宝される結果を生んでいる。それにより、日本における韓国への客観的な視角は失われつつある。