● 「山本太郎現象」その後 混迷するれいわ新選組のゆくえ
木下ちがや / 政治学者

変質するれいわ新選組支持層

 2013年参議院選東京選挙区で当選した山本太郎氏は、当初、脱原発の要求を基盤にしていた。当時、脱原発を求める大規模なデモンストレーションが全国でおこり、この風をうけて60万票を獲得したのだ。ところが2019年参院選にあたっては、脱原発の課題は後景に退け、経済政策を正面に掲げた。大規模な財政出勤と消費税廃止により国民生活を守るというスローガンである。この経済政策への共感がれいわ新選組の躍進をもたらしたのは事実である。

 しかしこのシングルイシューを徹底するあまり、似たような主張を掲げる右派の政治家、学者らと接近していくことになる。れいわ新選組に影響を与えた学者には、立命館大学の松尾匡教授のようなリベラル派がいる一方で、新自由主義的な大阪維新の会のブレーンである嘉悦大学の高橋洋一教授や、右派といわれる経済評論家三橋貴明氏らがいる。さらには消費税廃止の一点で、日本会議のメンバーである自民党安藤裕議員との連携も山本太郎は昨年から公言していた。
 筆者は昨年9月の論攷「野党系無党派が野党を進化させる」のなかで、参議院選挙でれいわ新選組に投票したひとたちの多くは、2014年総選挙で日本共産党に、2017年総選挙で立憲民主党に投票した層であると論じた。有権者のなかには、時々の状況により野党の枠内で投票先を変える層がおよそ200万票程度存在している。つまりれいわ新選組の支持層の大半は、「純粋無党派」ではなく、もともと野党指向の支持者を「風」で吸収したものだということである。

 したがってれいわ新選組の支持層はあくまでリベラルが軸である。にもかかわらず、経済政策において右派と接近し、かつリベラルな理念を掲げる立憲民主党を主要敵に設定したことで、支持層のなかに反リベラルの潮流が生まれてきたのである。

 ここ数年先進国を席巻したポピュリストたち――米国のドナルド・トランプ、フランスのマリーヌ・ルペンらは、「グローバリズムによって疎外された人々のための経済政策」を掲げ躍進した。しかし彼らが主敵に据えたのは、戦後政治において相対的に平等な分配を実現してきた社会リベラルや労働組合であった。かれらはリベラルな支持層を削り取り、右派ナショナリズムの衣のなかに放り込むことで勢力を拡大したのだ。れいわ新選組の経済政策とその打ち出し方は、これら右派ポピュリズムの戦略に匹敵するものだった。

 こうしたれいわ新選組の支持基盤がリベラルであることと、同党が右派に接近していくことの矛盾は、実ははやくから顕在化していた。昨年11月に山本太郎氏、馬淵澄夫衆議院議員らが主催した「消費税減税研究会」に、高橋洋一教授が招かれた。高橋氏の韓国や在日コリアンに対する発言には、多くのれいわ新選組支持者は従来から批判的であった。この件については、同党の大石あきこ衆議院予定候補者が山本太郎氏に対して問いただしたものの、曖昧にされたまま不問にふされている(注2)。


 この頃からネット上で、ジェンダーやレイシズムの問題について、従来のれいわ新選組支持者が違和感を抱くような投稿をする「新しい支持者」が増えていった。大西つねき氏も、今回の発言が発覚する以前から「(新型コロナ)ウィルスを受け入れて、救える命、救えない命の見切りをつける」といった発言を繰り返していた。消費税廃止のシングルイシューの下で、リベラルな覆いが次第に剥がれ、レイシズムや優性思想につながる勢力が流れ込んできていたのだ。

 大西つねき氏の「命の選別」発言は、リベラルな理念に基づけば断罪しかありえない。しかし、れいわ新選組の支持者のなかから擁護する声が数多くあがり、大西つねき氏の除籍に反対する署名運動まで行われた。これにもっとも衝撃を受けたのは、以前から山本太郎氏を支持するリベラルな支持者たちだった。このように大西つねき氏の「命の選別」発言はたんなる偶然ではなく、すでに生じていたれいわ新選組の支持層の変質を表面化させたのである。

https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020072200001.html?page=5