【カイロ=蜘手美鶴、北京=中沢穣】米国との対立をともに抱える中国とイランが、経済と軍事面でさらに距離を縮めている。両国が協議を続けるパートナーシップ協定について、米紙ニューヨーク・タイムズは25年に及ぶ貿易・軍事などの包括的な内容になると報じた。締結に向けたハードルはなお高いとみられるが、「反米協定」ともいえる内容が現実になれば、両国と米国とのさらなる関係悪化を招く恐れがある。

◆中国→イランに4000億ドル投資、見返りは原油格安に

 同紙が報じた「最終版」とされる協定案によると、中国が今後25年間で、港湾や高速鉄道、第5世代(5G)移動通信システムなど4000億ドル(約43兆円)相当をイランに投資し、見返りとして格安で原油の供給を受けるとされる。さらに合同軍事訓練や武器の共同開発、情報共有なども含まれる。
 協定は2016年に習近平国家主席がイラン訪問の際に初めて提起した。中国にとってイランは広域経済圏構想「一帯一路」の重要拠点でもあり、締結できれば大きな外交成果となる。
 しかし米国はイランに原油の全面輸出禁止などの制裁を科しており、中国がおおっぴらに原油輸入を再開すれば米国との対立は決定的となる。また同紙は、米国が支配的な地位を維持してきた中東で中国が重要な足掛かりを得ることになり、協定が「危険な発火点」になると指摘した。

◆「米国の機嫌なんか気にする必要ない」

 一方で、中国の中東専門家は「米中関係は既に極めて悪く、中国は米国の機嫌を損ねることを気にする必要はない。ハードルは以前より下がった」と話す。
 制裁によって経済が行き詰まるイランにとっては、中国との協定は頼みの綱といえる。AFP通信によると、最高指導者ハメネイ師も支持している。イランの元外交官で政治評論家、マジュレシ氏は「現状打開の唯一の道は中国だ」と断言する。

◆イラン保守派は反発「秘密取引」

 こうした動きに対し、外国との協力に否定的な保守強硬派が反発。アハマディネジャド前大統領は6月下旬、協定を「疑わしい秘密取引」と一蹴し、「25年もの秘密合意は認めない」と批判した。ザリフ外相は議会での演説で「信念をもって中国と交渉している。秘密はない」と説得を図るが、協定締結には保守強硬派が多数を占める議会の承認が必要で、まだ容易ではない。

◆市民も警戒感、一方で歓迎の声も

 市民の間にも中国への警戒感はある。テヘラン在住の50代男性は「中国に原油を奪われることが心配だ」と明かす。だが一方で、30代男性は「制裁によってすべてが苦しい。中国企業がイランで開発を進めるのは悪くない」と、協定を容認する考えを示した。

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ソース
東京新聞TOKYO WEB 2020年7月27日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/44964/