李朝時代に先祖返り

「韓国においても、いくら親日派の墓だからといってそれを掘り起こすなんてやり過ぎだ、というのが大方の人の考え方だと思います。しかし、常識ではあり得ないことが罷(まか)り通ってしまうのが文政権なんです」

 として、龍谷大学の李相哲教授が憤慨しながら説明する。

「韓国では、日本以上にお墓が大事にされます。先祖のお墓の向きや場所が、今を生きている子孫たちに大きな影響を及ぼすと考えられているのです。そのため、例えば事業が上手くいかない時に、風水に基づいてお墓の向きを変えたりすれば状況が改善するのではないかと考える。お墓の場所や向きが誤っていれば、そのせいで一族が没落する可能性があると考える人さえいます。それほど、韓国の人にとってお墓は重要なのです。当然、破墓法に反対の声もありますが、例によって文政権はこうした反日政策を支持率浮揚に利用しようとしているのです」

 先の呉教授も、文政権は「確信犯」だと見る。

「光復会会長の発言内容を、青瓦台(大統領府)が事前に確認していたのは間違いない。つまり文政権はこれを黙認し、破墓法で話題を集めたいと考えているのだと思います」

 もはや正気の沙汰とは思えないが、そもそも墓を掘り起こそうなどという突拍子もない発想は、一体どこからやってくるのだろうか。

「かつての李氏朝鮮時代に、『剖棺斬屍(ぼうかんざんし)』という刑罰がありました」

 こう謎解きをしてくれるのは、元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏だ。

「政敵の墓を暴き、棺を引きずり出し改めて遺体を斬刑に処し、その上で政敵の一族郎党を奴隷として売り飛ばす極めて野蛮な刑罰です。今回の破墓法は現代に甦った剖棺斬屍と言えるでしょう。春の総選挙で圧勝した文大統領ら『進歩派』が、親日残滓の清算という名のもとで『保守派』の墓を暴き、大いに辱(はずかし)めようとしているのです。文政権は、表面上は進歩的でリベラルを装っていますが、その実は、李朝時代のような専制君主制に先祖返りした政権と言えると思います」

 先の李教授も、前川氏と同様に破墓法の狙いをこう読み解く。

「『共に民主党』の議員たちが破墓法の対象にしようとしている親日派は、今の野党、すなわち保守派の先祖に当たるケースもあります。つまり文政権は、親日派の墓を掘り起こすことで、今を生きる野党政治家を傷つけようとしているのです」

 墓破りという行為自体が野蛮極まりないが、それを現代の政争に利用しようというのだから、何とも下品で浅ましい。

 いくらなんでも、破墓法が成立することはないと信じたいところだが、すでにその「下地」は作られているという。

「7月10日に白善ヨプ(ペクソンヨプ)将軍が亡くなったのですが……」

 と、前川氏が続ける。

「彼は朝鮮戦争における数々の激闘で功績をあげた救国の英雄でした。北朝鮮の侵略を食い止め、今の韓国を形作った大功労者です。しかし左派は、白将軍が日本統治時代に満州国軍の『間島特設隊』に所属していたとして、その内実を見ずに彼に“親日派”のレッテルを貼りました。そのため、白将軍は本来であればふたつある国立墓地のうち、格上のソウルに埋葬されるべきなのに、格下の大田(テジョン)の国立墓地に葬られたのです。しかも埋葬後、白将軍は国立墓地のホームページ上で『親日反民族行為者』と名指しされてしまいました」

 李教授が後を受ける。

「光復会は、白将軍はたとえ大田であったとしても国立墓地に埋葬されるべきではないと主張し、霊柩車が墓地に入る時に妨害行為を行いました」

 破墓法へと繋がる「親日死者攻撃」は、着々と進められているのである。付言しておくと、

「現職大統領は必ず国立墓地を参拝するのですが、文大統領は親日派とされる人のお墓を避けて参るという露骨な行動を取っています」(同)

(続く)