米中対立の激化に伴い組織が機能不全に陥った世界貿易機関(WTO)の次期事務局長選は、最終候補にナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相と韓国産業通商資源省の兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長が残った。重責を担う新指導者について、欧州連合(EU)を離脱し自由貿易体制を重視する英国ではオコンジョイウェアラ氏を本命視するが、中国の介入を懸念。韓国は政府が“総力戦”を展開、兪氏の逆転勝利を狙う。

≪ポイント≫

・英紙「日本が『拒否権』行使可能性」

・本命候補のアフリカは中国が投資拡大

・韓国人候補は政府が総力支援で後押し

・米新大統領の意向が影響する可能性も

英国 本命候補、中国影響に懸念

 最終段階に入ったWTOの事務局長選で、英メディアはナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相を本命視する。オコンジョイウェアラ氏はナイジェリアで経済改革を主導し、世界銀行でも専務理事を務めた。先進国で手腕が評価される一方、同氏が事務局長に選出されれば、アフリカへの投資を拡大する中国の影響を受けることが懸念されている。

 8日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は、事務局長選の選出作業を観測する大半のオブザーバーの分析から、オコンジョイウェアラ氏がアフリカ勢として初の事務局長になると予測した。

 同紙は、WTO大使への取材から、日本などが韓国との政治的緊張のために、韓国産業通商資源省の兪明希・通商交渉本部長の選出に対して「事実上の拒否権」を行使する可能性が高いと指摘した。昨年7月に日本による輸出管理厳格化措置が発動されて以来、日本を批判してきた兪氏の選出をめぐり、日本政府内で警戒感が広がっている。事務局長選は原則、投票という形はとらず、加盟国の全会一致が慣例であることから、日本が拒否すれば、兪氏の選出は難しくなりそうだ。

ワクチン開発を支援する国際組織の理事長を務める同氏は8月、自身のツイッターで「WTOのルールによりワクチンを誰もがアクセスしやすく、手頃な価格で入手できるようにすることができる」と主張した。

 オコンジョイウェアラ氏には、米中の長引く貿易戦争や紛争処理機能の停止などWTOが直面する課題を乗り越える覚悟もあると評価されている。同氏は今月4日の英紙テレグラフ(同)に対し、ナイジェリアの財務相時代に母親が同国で誘拐された事件に触れ、「(誘拐事件に対応した経験に比べれば)米中貿易戦争を終わらせることは大したことではない」と強調。WTOが抱える課題を「恐れていない」と言い切った。

 国際情勢に詳しい英専門家は「WTOを改革する強い意志と情熱を持つオコンジョイウェアラ氏が次期事務局長に適任だとする加盟国は多い」とした上で「(同氏が事務局長になれば)中国の影響力が増すアフリカを代表する立場となり、中国に配慮した運営を進める恐れも指摘されている」との見方を示した。(ロンドン 板東和正)

続く。

産経ニュース 2020.10.19 09:00
https://www.sankei.com/world/news/201019/wor2010190003-n1.html

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WTO次期事務局長選で、最終候補に残った韓国産業通商資源省の兪明希通商交渉本部長(左)とナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相