米大統領選の投開票(11月3日)まで半月となり、現職で共和党候補のドナルド・トランプ大統領(74)と、民主党候補のジョー・バイデン前副大統領(77)が激しく競り合っている。先週末には、バイデン氏と次男が絡む、新たな疑惑が炸裂(さくれつ)して注目された。習近平国家主席率いる中国共産党政権が軍事的覇権拡大を進め、自由主義陣営を脅かすなか、今回の大統領選は、日米関係や日本経済、世界情勢にも大きく影響しそうだ。結果次第で、どんな違いが出そうか、識者に聞いた。

 「トランプ氏が再選すれば日米関係は良好で、安心だ。これまでより強固になる」

 米国事情に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は、こう語った。

 安倍晋三前首相は在任中、トランプ氏と個人的な絆を強め、日米間の信頼関係をかつてないほど高めた。

 島田氏は「トランプ氏は、日本側が2018年に米最新鋭ステルス戦闘機『F35』105機の追加購入を決めるなど、日米同盟強化に腐心したことを理解し、さらなる深化を願っている」と話す。菅義偉首相との9月20日の日米電話首脳会談でも、そのことを確認しあった。

 では、「バイデン氏当選」だと、どうなのか。

 島田氏は「日米関係は危うくなる。バイデン氏は、トランプ氏ほどの大胆な政策構想能力や決断力はなく、『何でも同盟国と相談する』という立場で、おぼつかない。大統領選と同日に投開票される議会上院選(3分の1が改選)で民主党が多数党になれば、トランプ氏が勝利しても、対中国や対北朝鮮の締め付けが弱まる可能性がある。日米関係の維持に、日本側から米国の尻をたたかなければならなくなり、大変だ」と語る。

 「自由・民主」「人権」「法の支配」という基本的価値観を共有する自由主義陣営は、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を引き起こしながら、軍事的覇権拡大を進める中国への対抗姿勢を強めている。大統領選の結果は、これにも影響しそうだ。

 拓殖大学海外事情研究所所長の川上高司氏は「トランプ氏が再選すれば、(中国の暴走を阻止するため)米国は中国企業との関係を遮断する動き(=デカップリング)を加速させ、対中経済でより厳しく出るはずだ。台湾有事となれば、日本有事になる危険度も高まる」と分析する。

 自由主義と共産主義が対峙(たいじ)する台湾海峡では、中国軍機が9月以降、台湾の防空識別圏に頻繁に侵入している。「1つの中国(=台湾は中国の領土だ)」を主張する習氏は「全身全霊で戦争に備えよ」と軍に指示した。米国は、台湾の安全保障戦略への関与を強めており、最新鋭の武器の売却も決定している。

 これがバイデン政権になると、様相は変わる。

 川上氏は「米国では『中国マネー』の影響か、多くのシンクタンクが『中国寄り』だ。そのメンバーが新政権内に入ってくると米中は蜜月になる。日本は無視され、そこにできる『力の空白』に中国が付け入るはずだ。香港の民主化運動の弾圧に続き、台湾が中国にのみこまれ、日本も沖縄県・尖閣諸島が危なくなる。日本も含め、周辺国のシーレーンが干上がり、中国に頼らざるを得なくなると最悪だ。菅政権は米中の間で、難しいかじ取りを迫られる」と指摘する。

 ■トランプ再選なら日本景気上向くが

 大統領選の結果は、日本経済にも直結しそうだ。

 経済評論家の渡邉哲也氏は「まず、トランプ氏続投で現状路線が続けば、市場の動きを予測しやすい。日本経済はGDP(国内総生産)の85%を内需が占め、海外要因で大きくは変化しないが、株価は上がり、日本の景気も上向くはずだ。もともと、共和党政権には知日派が多く、金融・経済政策を図る上でも連携を取りやすい」と分析する。

 一方、「バイデン氏だと先が読めない。民主党内は中道派と急進左派とで不協和音が生じており、政策の方向性も見えない。これでは米国経済は安定せず、日本の株価や消費にマイナスになる。歴史的にも、民主党政権下では日本企業への風当たりが強く、貿易摩擦も起きた。今後、米国やオーストラリアとともに『中国抜きのサプライチェーン構築』を目指す経済構想の動きにもダメージとなる。日本側は対応に苦慮しそうだ」と語る。

 菅政権は「最悪の事態」に備えて具体的準備を進め、「最良の事態」を期待すべきだ。

夕刊フジ 10/19(月) 16:56
https://news.yahoo.co.jp/articles/31b2cf3aa358c39951bc8342ae8b8f2acbdd20bc