■ 千人計画とは何か

 元公安調査庁金沢公安調査事務所長で現在は日本戦略研究フォーラム政策提言委員の藤谷昌敏氏は、「中国『千人計画』を生んだのは毛沢東の大失策だった」(2020.10.23)で、概略以下のように記述している。

 毛沢東の大躍進政策や文化大革命で知識人は追放され枯渇した。

 近代化を目指す中国は20世紀末までに内外の優秀な人材100人を毎年招致する「百人計画」(通称・海亀政策)を1994年1月に作成。給与、医療保険、手当などのほか、200万元(3000万円前後)の研究費を与えるというもので、2008年3月までに1459人を招致し、中国科学院院士14人、研究所所長クラス85人、国家重点実験室主任51人を輩出した。

 ちなみに、中国初の5か年計画(1953〜57年)はソ連の援助で進められ、156の重工業プロジェクトが行われ、ソ連からの約11000人の科学者や技術者が指導にあたった。

 「千人計画」の正式名称は「海外ハイレベル人材招致『千人計画』」で、ハイレベルの外国人を招聘し国家級プロジェクトの責任者などにするもので、2009年から中国共産党中央組織部「中央人材工作協調チーム」が主導している。

 2012年7月までに外国人学者や研究者204人を含む2263人を招致したと公表し、「相当数の日本人研究者」が含まれているという。

 招致者の研究環境や生活費はもとより、配偶者についても招致人材の就職先機関が仕事を手配するか、生活補助金を出し、子女の就学についても志望に応じて関連機関が対応する。

 藤谷氏は「東大、京大、理研などに所属する名だたる研究者が多数参加しており、『千人計画』を通した技術移転・窃盗が極めて巧妙に行われてきたことが伺われる」と語る。

 そのため、文科省は科学技術系部局に「学術スパイ」対策などに当たる経済安保担当ポストを新設、外務省は来年度から大学への留学生や研究者らに発給するビザの審査を厳格化するなどの制度改革を図るという。

 そして、「欧米との共同研究体制を活発化し、安全保障に対する懸念を払拭するためには、大学・研究者の意識改革など官民学による強固な技術管理体制が必要」と提言している。

■ 米国の著名科学者たちが逮捕される現実

 米国では中国の「千人計画」に協力したかどで逮捕される著名な科学者が今年になってからだけでも続出し、メディアを賑わしている。

 「黄文雄の『日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実』」(2020.10.9)で、「アメリカ政府から補助金を貰っている学者が、中国のために研究を行い報酬を得て、それを隠していたということで、詐欺罪で逮捕されるケースが多い」として、今年半年間の著名人をリストアップしている。

 ハーバード大学化学・化学生物学部のチャールズ・リーバー学部長(ノーベル化学賞候補に挙がる人物で、ナノテクノロジー分野で世界の化学者をリードする存在)、ウェストバージニア大学物理学科教授のジェームズ・パトリック・ルイス博士、元エモリ―大学教授で生物学者の中国系米国人・李暁江、夫と共謀して勤務先の研究所から企業秘密を盗み中国で会社設立した女性科学者・陳莉など6人が逮捕や起訴され、有罪が確定するなどしている。

 この3年間でFBIが科学技術窃盗容疑で逮捕した中国関連の人物は約40人で、「千人計画」への参加者が多くいたし、豪州や台湾でも中国による学術界への浸透工作や技術窃盗が数多く暴かれているという。

(続く)