高校授業料無償化の対象に指定しなかったのは違法として、九州朝鮮中高級学校(北九州市八幡西区)の卒業生68人が国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審は30日、福岡高裁で判決が言い渡される。全国各地での同種訴訟は学校側の敗訴が続いている。福岡訴訟の原告の一人で現在は教諭として母校で教壇に立つ余信徹(ヨシンチョル)さん(25)は「差別を受けるのが当たり前とならないように無償化の問題を通じて訴えたい」と話している。

 在日朝鮮人というだけで差別の中で生きてきた。高級部(高校)の時、サッカーの試合中に「この朝鮮人が」と言われ、相手選手と小競り合いになった。今年は学校近くを通りかかった他校の高校生数人が「朝鮮学校があるんだ。怖い」と話していたのを耳にした。「朝鮮イコール怖いというイメージが社会に浸透している」。何気ない差別を何度も体験してきた。

 高校無償化を巡っては、2010年4月に当時の民主党政権が導入。しかし、北朝鮮による韓国砲撃で朝鮮学校の審査は留保され、政権交代後の13年2月に拉致問題の進展がないことなどを理由に除外された。

 「無償化は教育上の観点で判断されるはずではないのか」。朝鮮学校だけが政治的な問題で差別されたという悔しさがこみ上げた。「行動を起こすことで一人でも多くの人の考えを変えたいと思った」。高級部3年の時、原告に加わった。

 在日朝鮮人の多くは戦時中に植民地支配された朝鮮半島から移住。徴用で日本に連行された人もいた。戦後、帰国できなかった人たちが、子や孫が祖国の言葉や文化を忘れないようにするために「国語講習所」を設立したのが朝鮮学校の始まりだ。「こうした歴史的な経緯を基にして自分たちを見てくれないのかという怒りもある」と話す。

 朝鮮学校では公的援助を受けられないため、日本の学校を選択する家庭も続出している。九州朝鮮中高級学校は余さんの在校時に比べ生徒数は半減し、民族の歴史や文化を学べるコミュニティーが喪失するのではという危機感も募る。

 学校側が敗訴した先行判決では、北朝鮮や朝鮮総連から学校が不当な支配を受けているという国の主張が認められた。だが、余さんは訴える。「日本の学校と同じようなカリキュラムで教育をしている。その中で朝鮮人として生まれて朝鮮のことを学ぶのは一ミリも間違っていない。現場を見ずに先入観で判断してほしくない」【宮城裕也】

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