歳月の流れとともに体験や記憶が薄れていくことは、人にとって避けがたいことかもしれない。だからこそ、忘れてはならない思いや教訓に向き合い、伝えていく必要がある。

 未曽有の被害をもたらした東日本大震災から10年がたった。震災後、沖縄へ避難して住んでいる人々の87%が本紙アンケートに「震災の風化を感じる」と答えた。風化させないために、体験を語り継ぐことや継続的な報道などを求めている。

 古里に戻らない理由に、放射線や地震・津波への不安を挙げる声が多い。10年という時を経てもなお、津波被害や東京電力福島第1原発事故が、被災者の心に大きな影を落としている。

 沖縄での生活で困っていることは「収入減」が最も多い。「頼る人がいない」という回答や、被災地に残す高齢の両親を案じる声もあった。仕事は非正規雇用の割合が高く、震災前と比べて経済的な厳しさは増している。

 被災者の一つ一つの声に耳を傾け、きめ細かな支援が欠かせない。県をはじめ行政はできる限りの支援策を検討し、実行してほしい。

 被災地から遠く離れた沖縄に移り住み、「第二の故郷」のように感じる人もいる。気候や風土になじみ、温かな人情に感謝の言葉をつづる。避難者には子ども連れが多い。避難生活を送る中で母子家庭になった人もいる。つらい境遇に身を置きながら、沖縄に愛着を感じてくれるからこそ、その思いに寄り添うことを忘れずにいたい。

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 震災の教訓の一つは、防災・減災の取り組みを継続し、いかに次代へつないでいくかだ。言葉にするのはたやすいが、実際の行動に移すには困難さが伴う。

 本紙の41市町村アンケートで、災害発生時に現在の組織体制で「十分対応できる」と答えたのはゼロ。「対応が難しい」は14市町村で、「ほとんど対応できない」も2市町あった。高齢者や障がい者など、特別な配慮が必要な人を受け入れる福祉避難所は約7割が不十分とした。

 要因には、専門的知見や経験を持つ人材確保の難しさ、財政難が挙がる。震災を機に防災意識が向上し、対策の必要性を認識しながらも、施策として手が回らない自治体の苦悩が見て取れる。

 この傾向は沖縄に限らず、全国各地で共通している。防災・減災対策を市町村任せにせず、国や都道府県とも連携し、住民が安心できる体制を構築すべきだ。

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 当事者の思いに寄り添いながら、教訓を伝えていく営みは、76年前の沖縄戦とも通じる。長い年月が過ぎ、体験者が少なくなる中、沖縄戦もその実相を継承することの難しさに直面している。

 「風化」を防ぐための決め手はない。悲しみを繰り返さないためには、当事者の筆舌に尽くしがたい体験を共有し、一つ一つ語り継いでいくしかない。

 震災から10年を迎えたきょう、奪われた命に祈りをささげながら、その原点に立ち返りたい。

沖縄タイムス 2021年3月11日 11:17
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/719549