菅義偉首相とジョンソン英首相による11日の首脳会談は、交渉開始が決まったばかりのTPPへの英国参加に向けた、両国の意気込みを内外に示す場となった。会談に続くG7サミットではバイデン米大統領も加わり、経済面でも覇権を強める中国への対抗姿勢を打ち出すとみられる。会議は、離脱した米国へ将来的なTPPへの復帰を促す機会にもなりそうだ。

英国のTPP加盟に関しては今月2日、参加11カ国の閣僚級会合「TPP委員会」で交渉開始が決定した。菅首相は早期加入の実現に向け、同委員会の議長国として協力していく姿勢を示すことで、発足国以外で初めてとなる英国のTPP加盟実現へ勢いをつけたい狙いがあったとみられる。

日本にとって英国のTPP加盟は、インド太平洋地域において自由で開かれたルールに基づくサプライチェーン(供給網)の構築強化を意味する。新型コロナウイルスのワクチン外交も駆使して東南アジア諸国などに影響力を強める中国への牽制(けんせい)につながり、経済安全保障強化への試金石となる。

日英間では、今年1月に関税撤廃などを取り決めた経済連携協定(EPA)が発効しており、新たにTPP交渉で追加する交渉案件はそれほど多くない。

むしろ、日本は英国の加入を後押しすることで貿易自由化に関するTPPの厳しいルールを拡大させ、やはり新規加入を示唆している中国に対し圧力をかける戦略だ。国有企業の優遇禁止や知的財産保護、データ管理の規制といった中国にとって受け入れのハードルが高いTPPルールが、アジア太平洋地域を超えて普及することを重視する。

もっとも、厳しいルールを維持するという点では、加盟交渉において英国にも例外を認めることは許されない。菅首相にはジョンソン氏とTPPの価値観を共有し、対中で結束する意思を確認することが求められる。(那須慎一)

産経ニュース 2021/6/11 22:39
https://www.sankei.com/article/20210611-K6AH6SPAYJKTHJIHBMTGPQJLJE/