<世界を驚かせた米英豪の同盟「AUKUS」創設のきっかけは、今年3月、ロンドンのオーストラリア高等弁務官事務所での出来事だった。なぜオーストラリアは原子力潜水艦を求めるのか。なぜジョンソン英首相は「渡りに船」と捉えたのか>

英国の空母「クイーン・エリザベス」の艦隊の日本訪問は文字通り、インド太平洋時代の幕開けを告げることになった。

「クイーン・エリザベス」が日本を離れてちょうど1週間後の9月15日、英国、米国、オーストラリア政府はインド太平洋に新たな安全保障同盟「AUKUS(オーカス)」を創設することを突如発表し、世界を驚かせた。

この発表は手始めにオーストラリアに原子力潜水艦を供与することを明らかにした。中国はすぐにこれを冷戦思考だとして非難し、CPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への加盟を申請するなど、巻き返しに出ている。

しかし、AUKUSの創設はかなり前から周到に準備、計画されていたものであった。英国は米国と連携して、インド太平洋での新秩序の形成に向けて歩みを始めている。

コードネーム<フックレス作戦>

英国政府筋によれば、AUKUS創設のきっかけになったのは、今年3月、英国の海軍制服組のトップである第一海軍卿、サー・トニー・ラダキン提督がロンドン市内のオーストラリア高等弁務官事務所(英連邦加盟国は英国には大使の代わりに高等弁務官を置いている)に招かれた時のことだった。

ラダキン提督はそこで会談したオーストラリア海軍長官のマイケル・ヌーナン提督から意外な相談を持ちかけられた。「英国、米国は同盟国の潜水艦艦隊の建造に協力することが可能かどうか」という内容だった。

これは、オーストラリアがフランスから提供を受ける予定のアタック級通常型潜水艦12隻の建造計画を破棄し、英米から高性能の原潜の供与を受けられるかという打診だった。

この突然の要請はただちに英首相府(ダウニング街10番地)に持ち込まれて協議された。ジョンソン首相とその周辺の専門家たちは、オーストラリアの申し入れを好機と捉えた。

彼らは当時、EU離脱後の英国の新戦略「統合レビュー」を公表したばかりであり、その具体的な行動として、空母「クイーン・エリザベス」の艦隊をインド太平洋に派遣する計画ではあったが、それだけでは不十分と考えていたからである。

英国がインド太平洋で恒常的に活動するにはもっと確固とした法的な枠組みが必要だったのだ。

ジョンソン首相にはオーストラリアの要請はまさに渡りに船だった。もし、オーストラリアへの原潜の供与を一つのプロジェクトとして位置付けることができれば、それをばねにさらに広範な安全保障協力へと拡大することができるし、それを英米豪で行えば新しい安全保障同盟の創設につなげることができると考えたのである。

しかし、同盟の創設は繊細で機微な問題である。情報が外部に漏れると必ず外国が干渉してくるし、特にフランスがじゃましてくることが予想された。

そのため、首相府はこの問題は英米豪で合意するまですべて極秘に進めることを決め、「フックレス作戦」というコードネームのもと、政府内でもごく少数のスタッフだけがこの計画を進めることになった。

続きはソース先にて。(全4頁)

秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所〔RUSI〕日本特別代表、大阪大学大学院招聘教授)

Newsweek 2021年10月8日(金)15時50分
https://m.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/10/aukus-2_1.php