【ソウル=時吉達也】いわゆる徴用工訴訟問題で、韓国政府側が日本企業の賠償を肩代わりする解決案に関し、原告の一部で容認する意見が広がりつつある。これに対し、日本側の謝罪や資金拠出が必須だと主張する原告支援団体などは野党との連携を強化し、韓国政府との対決姿勢を一層鮮明にしている。原告団の「亀裂」は問題の長期化につながる恐れもある。

韓国主要紙の中央日報は15日、韓国政府案について「完璧ではないが、韓国政府が努力してきた事実自体を非難したい考えはない」として支持する複数の原告遺族の意見を伝えた。

2018年の韓国最高裁判決で勝訴が確定した原告は14人で、存命中の3人以外は遺族が訴訟を引き継いでいる。韓国政府の対日姿勢を「屈辱外交を続けている」と非難する原告支援団体の会見内容などが大きく報じられる一方、こうした遺族の声はこれまで伝えられていなかった。

別の主要紙、東亜日報も14日、「賠償であれ他の方法であれ、早く問題を解決すべきだ」などと政府案を容認する原告の声を紹介。韓国紙の外交担当記者の一人は「原告代理人や支援団体の意見を反映する『原告側』と、原告の立場は相当違う」と指摘する。

当事者と支援団体の意見の「ズレ」は、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的」解決を確認した15年の日韓合意の際にも生じていた。支援団体側が合意への反対世論を喚起する一方、当時存命だった元慰安婦47人のうち、35人が合意に基づく支援金の支給に応じた。

韓国外務省と「賠償肩代わり」の主体となる政府傘下の財団側は、支援団体などを介さずに直接原告と交渉する試みを加速させている。今月28日には政府側と原告関係者の会合が予定されているが、政府側が会合を前に、水面下で原告らとの個人面談を進めていたことが発覚。原告代理人弁護士は「高齢の原告との円滑なやり取りのため代理人に協力を求めておきながら、事前の通知なしに原告と連絡を取るのは不当だ」と反発を強める。

原告支援団体などは16日、韓国政府案の撤回を主張する野党系議員の会合に参加。徴用工問題の「政治争点化」で加勢を得て、政府に対抗する構えだ。最大野党「共に民主党」幹部は会合で「日本の戦犯企業が払うべき賠償金を韓国企業が背負うのは、解決ではなく屈辱だ」などと述べ、政府案を批判した。

2023/2/20 18:20
https://www.sankei.com/article/20230220-QPGOSDBCFZKM7NY67FCK3L4DCM/