・習政権の教育介入、移住が可能な在留資格への注目高める
・中国資本が熱海市の再生先導、労働力不足への対応手段にも

静岡県熱海市に戦後、憧れの新婚旅行先だった温泉旅館がある。1934年に開業し、吉田茂元首相ら政財界の要人も愛用した「つるや旅館」だ。尾崎紅葉の小説「金色夜叉」に登場する「お宮の松」の正面に位置する。80年代にかけて団体旅行でも人気だったが、2001年の閉館後は廃虚となり熱海衰退のシンボルとも呼ばれた。

この跡地を香港に本社を置くグローリー・チャンピオン・エンタープライズ・リミテッドが17年に買収し、約250億円かけて改修。全87室に温泉風呂とバトラー(執事)がつく高級宿「熱海パールスターホテル」として昨年9月に開業した。

少子高齢化による働き手不足や経営者の高齢化、施設の老朽化などが重なり温泉旅館の廃業が相次いでいる。この担い手として台頭しつつあるのが中国富裕層だ。新型コロナウイルス禍で経営が悪化して積極的な銀行融資が見込めない中、相場の倍近い高値もいとわない中国資本が売却先として魅力を増している。

物件仲介も手掛けるホテル旅館経営研究所の辻勇自所長は、高齢となった旅館経営者から海外への売却依頼が増え、同時に中国系資本からの紹介依頼も急増していると指摘。「今後10年間で温泉旅館の外国人所有率は4割程度になる」との見通しを示した。問い合わせは19年から増加傾向にあり、香港に拠点を持つ富裕層の割合が急増しているという。

中国からの投資が増える背景には習近平政権の政策がある。アリババグループ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏をはじめ、不動産やテクノロジー、金融などへの締め付けを強めた結果、警戒感を強めた富裕層が世界各国への資産移転を始めた。

中国・香港からの関心が急増 日本の温泉旅館を購入希望
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■潤沢な資金

太平洋を一望する関西の温泉宿の経営者(78歳)は、3年前に働き手不足のため旅館を手放す決意をした。

約5億円で売りに出すと国内からは半値なら買う、との回答が1件のみ。売却先を中国に広げると5社が手を挙げ、買値を上乗せする業者もあった。うち2社は中国人富裕層の資産管理会社だ。交渉中のため、匿名で取材に応じた。

学習院大学経済学部の渡辺真理子教授は、中国共産党が学習塾の非営利化を進めるなど教育への介入を始めたことで富裕層が投資だけでなく移住を視野に入れ始めたと指摘する。在留資格を得ることで国外で子供の教育機会が得られるためだ。

中国から日本への移住では、「経営管理ビザ」や「高度専門職ビザ」の在留資格の取得や相談が増えている。継続的に安定した事業を行うことが要件のため、旅館の買収と経営をセットで検討するケースも増えている。

(略)

■熱海再生

中国資本の買収が地域の再生につながる例も見られ始めた。熱海のパールスターホテルでは、運営を任された日本人スタッフが開業前から熱海市と対話を重ね、食事を提供しない「泊食分離」形式を取った。宿泊客に地域の飲食店で料理を楽しんでもらうためだ。

経営戦略室の大川真美支配人は、新婚旅行先として人気だった時代を知る世代だけでなく、初めて日本を訪れる海外客にも「今の熱海の魅力を知ってもらうこと」が経営戦略でもあると述べた。

熱海市の人口は約3万4000人。年間約300万人が訪れるが旅館食の提供により飲食店や地元の農漁業者への恩恵は限られていた。熱海市観光建設部の立見修司次長は、観光客向けに地産地消のメニュー作りが進めば野菜農家や漁業者の販路確保となり、高齢化の歯止めにつながる可能性もあると歓迎する。

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以下全文はソース先で

bloomberg. 2023年5月15日 10:03 JST
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-05-15/RUIVQ5T0G1KW01
https://news-pctr.c.yimg.jp/t/news-topics/images/tpc/2023/5/15/e1d2b5eba20a2465a9181a7ec664dde61a3f3ced38e10914e7b92e9875081083.png