警視庁が摘発した事件の捜査の違法性が問われた国家賠償訴訟で、現職捜査官が「事件は捏造(ねつぞう)」と証言した。
耳を疑う、異様な事態である。

生物兵器製造に転用可能な装置を無許可で輸出した外為法違反容疑などで
警視庁公安部は令和2年、製造元企業の社長ら3人を逮捕した。

検察は起訴したが、1年4カ月後に「犯罪に当たるか疑義が生じた」と起訴を取り消した。
社長らは国と東京都を提訴した。捜査した警察官4人が出廷し、2人が問題の証言をした。
ともに警部補で、1人は今も公安部在籍だ。

警部補らは原告側から「事件はでっち上げと思うか」と問われ、「捏造ですね」と証言した。
捜査中に問題点を指摘する内部通報があったが、「捜査にマイナスな証拠を取り上げない姿勢があった」などとも述べた。
一方、指揮官の警視(当時は警部)は否定し、捜査は適正だったと語った。

争う都の側の警察官が捜査を批判した。原告側から証言を頼まれた立場ではない。都側も求めた双方申請の証人である。
警部補は捜査幹部というべき階級だが、それが複数、法廷で自らの捜査を批判した。証言は重い。

警部補らの証言の中には、立件を手柄にして出世したい幹部たちの姿勢が背景にあったことを示唆するものもあった。

社長ら3人は11カ月にわたって勾留され、1人はこの間に病死した。輸出管理に関する捜査は国際社会の一員として不可欠だ。
捜査は法令のギリギリのところでせめぎあい、内部で見解が割れることもある。だが、今回の批判証言は、そうした議論とは異質だ。

中国や北朝鮮などの兵器開発に日本企業の民生品が利用されてはならない。そのための輸出管理捜査である。
企業活動を阻害することもあるため、自由社会の安全を守る目的での国家権力の行使だという国民の理解が必要だ。
警察捜査への信頼そのものである。証言の通り、捜査に捏造があったとしたら、信頼など得られまい。

経済安保の強化に向け、輸出管理は重要度が増している。
それなのに、警視庁で何が起きているのか。混乱を喜ぶのは、日本の捜査が緩んで利益を得る国や勢力だ。
なぜ捜査幹部が相次いで捜査批判を証言するに至ったのか、警視庁には公安捜査の受益者たる国民に説明する責務がある。

2023/7/6 05:00
https://www.sankei.com/article/20230706-D7YQRZ7LNNKHXANN7AOC26FCOQ/