岸田文雄首相は19日、中東3カ国歴訪を終え、政府専用機で羽田空港に帰国した。
ロシアのウクライナ侵略を受け、日本は石油や天然ガスの中東依存を高めており、3カ国からの安定調達は重要だ。
加えて、習近平国家主席率いる中国が台湾海峡や南シナ海での軍事的覇権拡大を進めるなか、
日本の「シーレーン(海上交通路)防衛」も注目されている。
中国が万が一、台湾を支配下に置けば、日本は事実上、中国に首元を抑えられたも同然になる。
元国家安全保障局次長、兼原信克氏は、
「エネルギー安全保障」や「食料安全保障」の要であるシーレーン防衛について考察した。

日本は堂々たる島国である。最北端の北海道・稚内から、最西端の沖縄県・与那国島まで約3000キロある。
地球の外周が約4万キロであるから、1割弱の長さである。日本は、本州をはじめとするユーラシア大陸東端の島々の上で、
世界第3位の経済を運営し、約1億2000万人の命を養っている。

その要は「シーレーン」である。日本はエネルギーのほとんどを外国から輸入している。特に、石油は湾岸地域に依存している。
湾岸地域は地政学的に不安定な場所である。日本は、他の先進国同様、石油備蓄を行っており、官民で半年分の備蓄がある。

しかし、「台湾有事」においては、中国人民解放軍がこれを爆撃しないとも限らない。
そうなれば、1日当たり、20万トンタンカーが、15隻日本に入港しないと、日本経済は「油断」で破綻する。

食料にしても、日本のカロリーベースの食料自給率は38%であり、生産額ベースでも63%である。

エネルギーも食料も、自給率を上げることは大切であるが、それだけでは鎖国時代と同じであり、現在の日本経済は回せない。
世界とつながるシーレーンがあるからこそ、日本は生存と繁栄を維持していけるのである。

だからこそ、逆にシーレーンは、有事には敵の攻撃対象になりやすい。

真珠湾攻撃の後、米海軍が行った最初の作戦は、日本の商船隊壊滅である。
実際、日本の商船のほとんどは徴用され、米軍に撃沈された。政府はろくに護衛もせず、かつ1銭の補償も払わなかった。
商船隊員の死亡率は、帝国海軍よりもはるかに高かった。海の底に消えていった商船員たちの無念はいかばかりだろうか。

シーレーンの戦略上の価値は高い。島国の日本にとって、それはむき出しの動脈が垂れ下がっているような物である。
そこでは陸戦のような民間財産保護のルールが十分には働かない。封鎖をかければ商船でも撃沈して構わない。
日本の頸(けい)動脈は、たやすく斬れるのである。

太平洋戦争で、あれほど国民が飢えたにもかかわらず、戦後の日本は、戦前と同様、シーレーン防衛に関心が低い。
「台湾有事」が始まれば、海上自衛隊は「それどころではない」と言い張るだろうし、
海上保安庁も日本関連商船を襲う「敵潜水艦には歯が立たない」と尻込みするだろう。

しかし、それでは太平洋戦争の二の舞である。台湾有事には、マラッカ海峡、南シナ海は通れなくなる。
迂回(うかい)路の選定や、護送船団方式の活用など、今から十分に準備しておくべきである。
兼原信克

夕刊フジ 2023.7/21 06:30
https://www.zakzak.co.jp/article/20230721-CA6S6KBT5JMHPITPWMDP7W3RYU/