米中台、演習から一気に「台湾有事」展開も 実際の軍事行動の客観的分析が重要 中国と対峙、米軍沖縄基地が緊迫

透き通るような青みを帯びた空を横切るように、薄灰色の軍用機がひっきりなしに行き交った。
米海軍の対潜哨戒機P―8A「ポセイドン」の姿も確認できた。

筆者は先週末、沖縄県那覇市に出張した。足を延ばして米軍嘉手納基地(嘉手納町など)も訪れた。
中国と対峙(たいじ)する東アジア最大の米軍基地の動向を探るためだ。
定期的に基地を訪問しているが、この日に飛行していた軍用機の数は、これまで見たことがないほど多かった。

台湾国防部の発表を見て合点がいった。

中国軍の艦艇16隻が14日、台湾を取り囲むように周辺の海域で軍事演習を実施した。
艦船数としては最多で、ナンシー・ペロシ米下院議長(当時)の訪台後に実施した昨年8月の大規模演習を上回る規模といえる。
またこの日、空中では延べ15機の中国軍機が台湾周辺を飛行し、うち3機が台湾南西の防空識別圏(ADIZ)に侵入した。

中国共産党系機関紙、人民日報系の「環球時報」によると、一連の演習は北部、南部の両戦区が合同で実施したもので、
「台湾を包囲する能力を示すもので、台湾東岸での上陸を想定したものだった」と解説している。

その前日(13日)にも、中国軍の30機の軍用機と9隻の艦艇が台湾周辺で演習を実施している。
昨年8月以降、台湾周辺で活動した中国軍機は5300機を超え、中国軍による台湾周辺での演習は、
ほぼ連日行われている状況となっている。

これに対し、米軍や台湾軍の動きも活発になっている。

米海軍によると、「ポセイドン」は13日に台湾海峡の上空を飛行した。
筆者が嘉手納基地で目撃したのも、中国軍の演習に関連した作戦行動のようだ。
中国軍東部戦区司令部は「同戦区の部隊は常に厳戒態勢にあり、国家の主権と安全、
地域の平和と安定を断固として守る」との声明を発表した。

台湾軍も今月24日から5日間、台湾全土で中国軍による軍事侵攻を想定した軍事演習「漢光」を実施する。
台湾国防部の報道官は演習について、「ロシア・ウクライナ戦争から教訓を得た内容で、あらゆる場所が戦争になり得る」と指摘した。
海岸部や港湾、空港の防衛のほか、反攻作戦も想定した訓練となるという。

台湾周辺をめぐり、中国軍と、米軍・台湾軍との対立が緊迫化してくると、
両軍の軍用機や艦艇による衝突から有事に発展するリスクが高まる。
中国軍が演習から台湾への軍事侵攻を一気に展開する可能性も否定できない。

にもかかわらず、こうした緊迫した情勢を日本メディアはほとんど伝えていない。
こういう状況を知らないまま、「台湾有事」が起こるか、起こらないかという議論をしても意味はない、と筆者は考える。
実際の軍事行動をしっかりと把握して客観的な分析をすることこそが重要なのだ。
 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員・峯村健司)

夕刊フジ 2023.7/22 10:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20230722-FIW3R4HD2NME3LNAR5XKT6MHQ4/