ー前略ー
「食料危機」の理由はいくつかある。

直近では、中国での大水害だ。先月来、
北京に近い河北省や東北部の複数の省で大雨による被害が出ていることはご承知のとおり。
北京郊外や河北省で100万人以上が避難を余儀なくされ、少なくとも30人が死亡したと伝えられる。

中国東北部、旧満洲地域といえば穀倉地帯だ。中国でのコメ、トウモロコシなどの穀物、
大豆の5分の1以上が、黒竜江、吉林、遼寧の3省で生産されている。ここも水に浸かったのだ。

余談だが、この100万人規模の避難は「北京を守るため」の措置だと日本のメディアでは伝えられた。
この理由も日本では到底通らないひどいものだが、実はもっとひどいものだという。

筆者が主催するネット番組「ニュース生放送 あさ8時!」に9日出演した評論家の石平さんによれば、
「北京ではなく、習近平国家主席のメンツを守るために100万人が避難させられ、多くの集落が水没したと言って過言でない」
とのこと。

実態はこうだ。習主席肝いりで計画されていた新都市「雄安新区」建設。北京の南にある雄安に巨費を投じて、
将来的には2000万規模の「スマートシティ」をつくるという構想だった。

しかし、これには専門家からの懸念の声が多く寄せられた。雄安は海抜が低く、水の流れ込みやすいところ。
洪水のリスクが高く、大都市建設には適さないというのだ。その建言を習氏は聞かず、雄安新区構想を推し進めた。

今回の大規模避難は、いまだできてもいない「雄安」を守るため決行された。
そのため中国のネットでは怒りと怨嗟(えんさ)の声が増えている。

話を食料に戻そう。

穀倉地帯の深刻な被害は、中国国営メディアでさえも伝えている。

中国共産党の機関紙、人民日報は、黒竜江省の中心都市ハルビンで16万2000人以上が避難、
9万ヘクタール超の農地が洪水の被害に遭ったと報じた。
稲田の水没はもちろん、野菜のビニールハウスが破壊され、食料加工を含む工場も壊れたという。

さらに、黒竜江、吉林両省で25の河川が警戒レベルを超え、決壊の恐れが強まったため、
水資源省は6日、2省について、洪水緊急対応レベルを引き上げた。

食料危機の理由は中国の水害だけではない。

ロシアが先月、「穀物輸出合意(=黒海を経由する小麦などのウクライナ産穀物の輸出合意)」から離脱したことだ。
これにより中東やアフリカなどでの食料危機への懸念が一層高まっている。

しかも、中東、アフリカなど途上国への打撃にとどまらず、世界の食料価格の高騰リスクともいえ、
日本への影響も十分考えられる。

理由の第3は、エルニーニョなどの異常気象。ウクライナ危機と合わせて、かねてより世界の穀物の価格を押し上げていた。

こうした情勢を受け、各国の政府は自国防衛策を打ち出している。

ベトナム政府は4日、コメの輸出価格上昇を受け、全国の各省市政府と卸売業者などに
来年の旧正月(テト)期までの供給計画を策定し、安定かつ適正価格での供給を維持するよう指示した。
大量買付や輸出への自粛策だ。輸出向け出荷を優先すれば、国内の需給が崩れ価格が高騰しかねないためだ。
インドも穀物輸出制限策を打ち出している。

日本は穀物輸出国ではないので、越印などの例は参考にならないという向きがあろうが、さにあらず。

穀物の6割強を輸入に頼る国だからこそ、価格高騰は国民生活の打撃となる。さらに、
近隣諸国での食料事情悪化が進めば、日本から輸出して高く売ろうと考える業者があっても不思議ではない。

そもそも、日本は、危機の際、特定の物資を輸出禁止にする手立てがないことは、コロナ禍初期のマスク不足で立証済みだ。
いまこそ食料安全保障を基本から論じ、迅速に対策すべき時だ。

夕刊フジ 2023.8/11 10:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20230811-K22RM6PV3BJ6ZH4STONSZPQMKE/