北岡 裕 2023年9月20日(水) 10時0分

ー前略ー
自分よりはるかに年上の人であっても、年齢の話はよい話題になる。「下の息子と一緒だね」という言葉が出たらチャンスだ。
特に女性であればほぼ100パーセント息子自慢が始まる。「ソウル大学を出て、サムスングループに勤めていて…」などと自慢げに話し始めたら、
「ほう!」「それは素晴らしい!」と少し大げさに合いの手を入れてみよう。やがて「なんだか日本人の息子が出来たみたいだよ」と女性も破顔。
もう少しだけ調子に乗って「オモニム(お母さま)!」と呼んでみるとまんざらでもない様子で、
痩身な私を見て「アイゴー、日本の息子よ。たくさん食べなさい」と初対面の女性に定食のお勘定をもってもらったことが過去何度もある。

朝鮮民族は名字の種類が少なく、約300種といわれている。
そして偏りがある。金氏だけで約20%。トップ5の金、李、朴、崔、鄭で50%近くになる。
そして下の名前が2文字でフルネームが合計3文字の人がほとんどだ。尹錫悦大統領も金正恩総書記もそう。
ドラマ「愛の不時着」で有名になった俳優のヒョン・ビンは少し珍しい例だ。困るのはビジネスの席で、名刺交換してもまず1回で名前を覚えられない。
でも相手は韓国語が出来る日本人だと覚えているので、2回目は「おお!韓国語の出来る北岡さんじゃないですか」となる。
一方こちらはこの人誰だっけ?李さんだったか金さんだったか…?と慌てることになる。

ところが金氏にもいろいろあるのである。例えば安東金氏、全州金氏という存在がある。
安東、全州の部分を本貫という。日本の上杉家(山内上杉家、扇谷上杉家など)や藤原四家(北家、南家、式家、京家)
を思い浮かべる人もいるだろうか。

最近、韓国ドラマで気に入った俳優がいるとウィキペディアで調べてみるのだが、みな本貫が書かれていることに気づいた。
韓国語教室の先生に本貫を聞くと、「私は〇〇崔氏です」と即、答えが返ってきた。
なんでも小学生になる前から祖父母に「あなたは〇〇崔氏」だと教えられ、族譜(系図)を持って自分がどこにいて
何代目にあたるのかも教え込まれてきたという。

この先生に限らずほぼ誰でも、ある年齢を過ぎた韓国人なら自分の本貫を知っている。初対面の人に名前を聞く時は本貫も同時に確認する。
同じ姓の場合は特にそうだ。恋愛・結婚対象から外さねばならなくなるからである。

韓国では97年の憲法裁判所の違憲判断までは、親等上問題がなくても同じ本貫同士の結婚は出来なかった。
近親婚とみなされていたのである。そのため同姓の気になる異性がいたら早々に本貫を確認して将来の悲劇を防いでいた。
韓国語教室の先生に「今は韓国で同じ本貫同士の結婚は法的には問題がないようですが」と問うと、「駄目なんです。気持ち悪い」と言う。
今も特に年配の人の反対があることも多いと聞く。生理的に気持ち悪い、またタブーとして根強く残っているということだろう。

実はこの本貫を確認する質問はある程度年齢を重ねた男性に効く。「本貫は何ですか。ご先祖さまはどんな方だったのですか」と聞くと、
何代前の祖先は両班(いわゆる王朝の官僚、役職者、支配層)で、何代前の祖先は宮中で高い地位の職を務めていて…
という自慢話がとうとうと始まるので、「ほう!」「それは素晴らしい!」と合いの手を入れると、
「あなたは日本人なのに、本貫なんてよくご存じですね。よくわが国のことを勉強されていますな。恐れ入った」となり、
以降かわいがられることになる。

こうして韓国では自己紹介から懐に飛び込む術を心得ていたのだが、北朝鮮ではどうか。
「出張先は北朝鮮」(呉英進著・西山秀昭訳・作品社)という本に興味深いシーンがある。
ー後略ー

全文はソースから
https://www.recordchina.co.jp/b920780-s108-c60-d1108.html