消えた国務院総理

 10月9日午前、「中国工会第18回全国代表大会」が開幕した。「工会」(コンフイ)とは、労働組合のことだ。この、中国でもっとも重要な行事の一つは、中国共産党代表大会と同様に5年毎に開かれ、重要な人事や報告の審議などを行う。

 例年この大会には政治局常務委員(共産党トップ7)が全員参加したが、今年は異変があった。なんと国務院総理の李強の姿がなく、習近平も含めてほかの6名の政治局常務委員は全員出席した。実に奇妙なできことだ。

 前回の第17回「中国工会全国代表大会」は、2018年10月22日から26日まで開催された。「習近平、李克強、栗戦書、汪洋、趙楽際、韓正が出席し、王滬寧が党中央を代表して祝辞を述べた」と新華社は報道した。

 しかも7名の政治局常務委員の名は、全員上のような順列でサブタイトルに書かれた。16回大会も同じ形で報道され、李克強は二番目に書かれていた。しかし、今年は新華社など政府系の報道でタイトルとサブタイトルは前回と変わりがないが、政治局常務委員から李強の名前が消えた。

 新華社の報道のタイトルは下記とおりだ。

 「習近平、趙楽際、王滬寧、丁薛祥、李希が会議に出席し、蔡奇が党中央を代表して祝辞を述べた」

 目を疑った。何度も繰り返し読んだが、国務院総理の李強の名は見つからなかった。

 これほど重要な行事から彼は意図的に外されたのか? 
 それとも、どうしてもやらなければならない仕事があるから欠席したのか? 

(略)

 党内の団結と指導部の協調を何より大切と思っている中国政府は、和気あいあいの映像と報道しか公にしない。問題やトラブルなど都合の悪いことがあれば、なるべく表に出さないように隠すのが普通だ。

 一例を挙げると、前外相の秦剛が本当に取り調べられているのに、しばらくの間は健康問題だと記者会見で誤魔化した。隠してもどうにもならないとなって、ようやく公表した。

 しかし、李強に対するやり方は少し違う。この連載の前回で書いたように、国慶節のレセプションで慣例が破られ、習近平が李強の代わりに祝辞を述べた。今度もまた李強を地方に行かせて、7人のうち6人が大会に参加した。李強だけがのけ者にされた。

 そのことを隠さずに内外に公開した。

 先月末に、李強の家族の情報が突然、流出したことと合わせて分析すると、習近平は李強に対し警戒心を抱き始めたと国外の中国政治専門家は分析している。また、李強は政権内でナンバーツーとはいえ、習近平はナンバー5の蔡奇党中央弁公庁主任を、より一層信頼しているとも伝えられる。

気まぐれで慣例無視

 今年3月3日、ロイター通信が李強に関して報道した。内部情報筋の話として、李強は習近平には内緒で専門家などとコロナ政策の大転換を議論していた。中国が昨年末に、突然ロックダウン政策を放棄したのもそのせいだ。

 その報道では、李強こそ習近平にも逆らい、正しい政策を執行できる側近だと書いていた。ほかの西側メディアも似た論調で、国務院総理に着任したばかりの李強を取り上げた。海外にいる中国語のメディアも転載の形でそれを報道したので、習近平も知ったのだろう。

 習近平が李強に警戒心を持つきっかけとなったという見方もあった。また、李強の常に一歩下がる謙虚な姿が、かえって習近平の独裁ぶりを浮き彫りさせたともいわれた。習近平はそれを心から喜ぶことはできないのだろう。

(略)

 10月20日には全国人民代表大会(全人代)常務委員会が開かれる予定だ。人事の任免案が審議されると、新華社は報道した。行方不明の現国防部長(防衛相)の李尚福が解任され、新しい人が任命される可能性もある。気まぐれで慣例を無視しがちな習近平だから、どんなことでも起こりうる。

全文はソースで
https://news.yahoo.co.jp/articles/ff69f880f14e4c833cf3ad512794a486d59adb9b?page=1