スピーカーから生の音は出ない。

正しく考えてみれば(実はこれが大変難儀な事なのだが)こんな当たり前な事を受け入れるのに、わたしは20年という年月を要したのである。
その後は、コンサートホールでヴァイオリンの第1音を聴いた瞬間、その度に愕然とした敗北感を味わいながらも

「ある処の音は実に旨いこと鳴る」
オーディオルームに居るんだかコンサートホールに居るんだか分からないって瞬間があるんですね。

15インチのスピーカーシステムをプリウスが買えるほどの高価なアンプで鳴らそうが、生のオーケストラやコンサートグランドのエネルギー感は、これはもう絶対に出ない。

こんな乾燥した季節(最適な湿度は35%〜40%)が続きますと、冬でもあり球アンプの熱も部屋に温もりを与えたりしており、ヴァイオリンやオーケストラの「ある処の音」が実に旨いこと鳴る。

わたしが長年使用している機器は、SACDプレーヤーを除けば球1つに至るまで1960年代〜70年代初頭の製品なのだが、1980年代以降の機器からは、この音は出ない。
時代に合った音と言うべきか
頗る良いデジタル録音のSACD(諏訪内晶子/シベリウス ヴァイオリン協奏曲はその一例)の音も鮮烈で良いのだが
諏訪根自子の芸術(2枚組CD)にSPレコードの金属原盤をCD化した音がありまして、これとか、メニューイン&フルトヴェングラー盤のベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲
これらがまたクレデンザを彷彿とさせる音で鳴る。
利便性故、(SA)CDがメインソフトではあるが、この5〜6年間、LPレコード/ドーナツ盤レコード集めを少々しておるんですが、カートリッジで拾うレコードの音の良さを改めて認識しました。
一言で言えば「音の重心が低く静寂感がある」んですね。

この20〜30年間の機器で聞くとどうなんでしょうねえ?

わたしの周りに居る10代の若者たちは、ヘッドフォンの音すら知らない(ダウンロード音源をイアフォンで聞くのみ)。CDも購入したことがない。「レコード?見たことありません」が多数派である。

最終授業日である2月末に「CDウォークマン+MDR Z1000」を持参し、カルロス・クライバー&ウィーンフィルハーモニー管弦楽団のベートーヴェン交響曲5番を聞かせる約束を数人とした。