Jensen P12Rをオーディオ的にみると
30cmという口径の割には低音は出ない、かといって高音も6kHzからロールオフする
典型的なSP盤時代の特性を基調にしている。

一方のサウンドの特徴は、リバーブのような豊富な倍音(高次歪み)
出音の瞬発力の速さなど、楽器的な特徴を多く備えている。
いわゆるHi-Fiの基本である、低歪みで広帯域というルールとは逆行している。

ところがこのP12Rは、その喰い付きの良さや荒れ具合など
ポップスのツボにハマる要素を沢山備えている。
最初に60年代ロックから入り、50年代ブルース、ロカビリーと進むうちに
このサウンドこそが、これまで見逃していたアメリカン・ポップスの原器だと
確信するようになった。これらのサウンドの変な癖はJensenが背負ってたのだ。
それもエレクトリック化されてから、相当長い時間を経ても癖は直らないままだ。

ここでアメリカン・ポップスの文脈で歌謡曲を聴き直してみると
エンターテインメントの基本に触れる思いがする。
それは楽曲の鑑賞ではなく、パフォーマンスの再現という立場で
過去の録音を見直す機会を与えてくれた。
その血筋は、血液という成分の類似に留まらず、脈動して吹き出すようなもので
肉体の叫びをそのまま赤裸々に出す。だから荒れてもいるし、悶えもする。