「イヤだアーッ!」
父親の同情を誘うように大声で叫んだ。
その瞬間、コーチのこぶしが子供のみぞおちに打ち込まれた。
グゥワッとうなりながらも必死に抵抗する子供に、なおも強烈なパンチが続けざまに数発。
戸塚やコーチによると、ここが重要な勝負どころだという。
この相手にはかなわない、いうことをきくしか仕方ないと、最初の出会いの時に思わせなくてはならない。
しかもそれは、理屈抜きに、体で覚えさせなくてはならない。
甘ったれ、世をすね、親のいうことも、先生やまわりのいうことも聞かなくなったような子供には、
理屈や説得は通用しないし、無用だというのである。

子供に対して、あなたはどうやって責任をとるんですか。
いま、好かれなくとも、将来感謝される道を、なぜ選ぱないんです。
いまのあなたの甘さ、優しさを、子供は将来、きっとうらむんです。

さらにしごきを通じて、生徒がコーチに従うという関係が確立される。
精神力のある正常な者であれば、自らの意思によって困難に挑戦し、克服しようと努力するが、
その力のない彼らはコーチによっていやがるのを無理にやらされることになる。
怠けても、逃げても骨身にこたえるパンチが待っている。
コーチには体力、知力、技術、経験等、あらゆる面でかなわないことを子供たちは肌で覚えさせられるのである。
「一人前でない子供の自主性を尊重するとか、対等に話し合うなど悪しき平等主義」

生徒同士でも教える方は絶対。
教わる方は年上でも威儀を正し、礼を尽くさねばならない。
悔しかったら努力して早くうまくなれ、というわけだ。
生徒が合宿所の2階の広間から階下へ上り下りする時には、コーチ室の前へ直立不動の姿勢で立ち、
「下へ降ります」 「上がりました」
と大声でいって礼をしなくてはならない。声が小さかったり、姿勢が悪かったりすると、
「やり直し!」と、何度でもやらされる。