「お前は、自分のやった事の重大さをわかっているのかッ!」
合宿所へ連れ戻された若者に可児コーチがいった。
可児ともう1人の加藤忠志コーチはこもごもキツネの家庭の事情、戸塚の好意によって面倒をみてもらい、
立ち直る寸前であったことを教えたうえで、可児が再びいった。
「お前は立ち直りかけていたキツネの人生をだいなしにしてしまったんだ。
その責任をどうやってとるつもりなのかッ!」

2人を調べていたコーチの加藤忠志はその若者に向かっていった。
「みんなに何といったのか、正確にもう1度いうてみィ!」
若者はその気迫に気圧(けお)されていいよどんでいたが、加藤に再度きつく促され、
「耐えがたい暴行を受けた、といいました」と告白した。
まわりにいたコーチたちがいっせいに立ち上がり、
「耐えがたい暴行とは、こういうことかッ!」
といいざま、強烈なパンチを相次いで若者に打ち込んだ。

「友達にいじめられる」
と言って学校を休んだのをきっかけに、登校拒否を起こしていた。
市の教育相談所や大学の神経科へ通ったが、登校拒否は治らなかった。
そのころ、妻の姉がたまたまテレビで戸塚ヨットスクールの番組を見た。
効果があるらしい、と姉から妻に連絡があり、2人でパンフレットを取り寄せて検討したうえで、長男を入校させた。
夫はあまり賛成ではなかったのだが、妻たちの意見に従った。
ところが、約1週間の訓練を終えて帰宅した長男は顔がはれあがり、体中アザだらけ。
あちこちに傷を負って、骨の痛みを訴え、恐怖に震えていた。
しかも、登校拒否は治っていない。