一方、対象は①チッソ水俣工場がメチル水銀を含む排水をした水俣湾周辺に1年以上居住②排水が止まった翌年の1969年11月末までの生まれ――とし、「居住歴」と「出生時期」を限定した。一時金の申請時期も施行から3年以内に区切った。一時金などを4万8012人が申請して3万8320人に支給されたが、9692人は認められなかった。

 大阪訴訟の原告は熊本、鹿児島両県出身で50~80代の男女とその遺族。水俣湾が面する不知火(しらぬい)海の沿岸や山間部に住んでいた。128人のうち71人は対象地域外で、4人は出生時期の要件を満たさなかった。救済策を知らずに期限までに申請できなかった人もいる。いずれも幼少期、メチル水銀を蓄積した魚介類を食べて手足のしびれなどを発症したとして提訴した。

 原告側は、チッソの排水で汚染された魚は水俣湾やその周辺だけでなく、不知火海全体にも広がっていたと主張。日常的に食べていれば水俣病を発症する可能性が高いと訴えていた。一方、国側は「水銀の汚染濃度は距離とともに減退する」と反論。水俣湾周辺以外の魚は水俣病を発症するほど汚染されておらず、原告らの症状は水俣病とは認められないとしていた。水俣病の公式確認(56年)から半世紀以上が経過し、不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」の適用も争点になった。【鈴木拓也】

 ◇水俣病

 有機水銀中毒による神経疾患。手足のしびれや言語障害、視覚障害といった症状を起こす。チッソ水俣工場(熊本県水俣市)の排水に含まれたメチル水銀が魚介類に蓄積し、それを人が食べたことが原因で集団発生した。1956年に公式確認され、65年に新潟県でも確認された。国は68年に公害病と認定し、認定患者は全国で3000人(2022年11月末時点、うち生存者357人)。

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