不安や不満、無力感や疎外感
 真面目で正義感が強い母親だった。女子大学生が幼い頃は「いじめられている子には、あなたが話しかけてあげなさい」と教えられた。父親に叱られると、よくかばってくれた。

 だが、母親は人付き合いが苦手で友人も少なかった。昔からパソコンの前にいることが多く、新型コロナウイルス禍でほとんど外出しなくなると、一日中、ツイッターやユーチューブなどを見るようになった。

 家族が気付かない間に陰謀論に引き寄せられた母親。コロナワクチンについても「毒やマイクロチップが入っている」というメッセージを送ってくるようになった。日本で接種が始まると、言動はエスカレートする。

自宅で顔を合わせると、涙を浮かべて懇願した。

 「絶対打たないで。あなたたちが打ったら、私は絶望して死んじゃうから」

 女子学生は妹と父親と相談し、接種したことを母親に隠すしかなかった。

 母親は世間話をしていても陰謀論を主張するようになり、同意しない家族を軽侮する発言も増えた。妹は「一緒に住むのがしんどい」と地方の大学に進学し、父親も会話を避けるようになった。
「以前の母には戻ってくれないのかもしれない」。女子学生は、疲れ果てた様子で語った。