人間は忘れる生き物(´・_・`)


このような甚大な被害をもたらしたスペインかぜはなぜ忘れ去られてしまったのだろうか。忘れられたのは日本だけでなく、アメリカでもそうだった[80]。

クロスビーは「憶測ではあるが」としながら次のように述べた[80]。

第一次世界大戦に対する関心がスペイン・インフルエンザより勝っていた。
スペイン・インフルエンザによる死亡率は、高いとはいえなかった
スペイン・インフルエンザは突然やってきて、人々をなぎ倒しはしたが、あっという間に去り戻ってこなかった。
スペイン・インフルエンザは超有名な人物の命を奪わなかった。
といった理由である[80]。

日本の場合も当てはまるが特に日本の場合は流行の時期が日本の歴史の中でも特別な意味を持つ時期と一致していた。大正中期、海外から輸入してくる社会主義思想、「米騒動」に象徴される社会運動、都市の労働運動、日本の工業生産額の増加、電力生産力の増加。特に第一次世界大戦の戦勝国として国際連盟の理事国となり大陸進出を始めた。普通選挙法も始まった。大学令によって私立大学も大学の仲間入りをした。識字率の上昇により大衆に文字文化を伝え雑誌、書籍の発行点数が非常な勢いで上昇した[80]。

こういった身の回りの大きな変動がスペインかぜを軽い病気に見せたのだろうか。ペストやコレラにくらべて死亡率も低く「軽く」見られていたところもある[80]。

とにかく早く忘れたいという気持ちが底に流れていたのかもしれない[80]。

そして流行後まもなく関東大震災が来る。人的被害より物的被害が大きかった。これによりスペインかぜは記憶の片隅に追いやられた。さらに昭和期に入ると日中戦争、太平洋戦争とスペインかぜよりももう一桁多い戦死者や一般市民の犠牲者を出す出来事が相次ぎ、さらに忘却してしまった[80]。

新型インフルエンザの到来により今再び人々の話題に登場するようになった[80]。